ちひろ@わかばのリワマヒ日記帳

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zoom RSS ストーリーによるAマホバリエーションその2 「サクラサクラ」1-3

<<   作成日時 : 2008/01/14 20:12   >>

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 〜3〜

 ドアチャイムの音に、ちひろははたとペンを走らせる手を止めた。慌てて立ち上がって玄関に向かいながら腕の時計に目を落とすと、もういつもの時刻になっていた。
「こんばんは」
「こんばんは、お疲れ様です〜」
 ドアを開くと、そこにはいつも通り島津が立っている。手には、屋台で買ってきたらしい包みが下げられて、夜気に湯気を立てているのが見えた。
「夜食のデリバリーです」
「ありがとうございます。どうぞ、上がってください」
 差し出された包みを受け取って、ちひろは一歩後ろへ身を引いた。
「はい、じゃあお言葉に甘えて」
 そういって部屋に入ってくるのを見届けて、ちひろは包みを抱いたまま小さなキッチンに駆け込んだ。
 毎晩、この時刻になると島津はレストランの残り物と屋台で買った食事を持って現れる。お願いしていた本を持ってきてくれる時もある。それをありがたく受け取って、温かいお茶をもてなすのが、ちひろの日課になっていた。


 おこたで向かい合って、島津が買ってきた夜食を二人で食べる。今日店であった事を、彼はおもしろおかしく話して聞かせてくれた。今は外部との接点がないちひろにとって、それはなによりの息抜きだった。
「‥‥‥いよいよ明日ですね」
 食事を終えてニ杯目のお茶を飲みながら、島津が確認するように言う。昔だったらプレッシャーしか感じなかっただろう言葉に、ちひろはしっかりと頷いた。
「はい」
「調子はどうです?」
 笑顔での問い掛けに、もう一度、もっとはっきり頷く。
「大丈夫です」
 勝ちます、と威勢よく宣言しようかと思った。が、さすがに少し恥ずかしい気がして、またお茶を飲む。
「なら、安心ですね」
 笑顔でそう言って、島津はお茶を飲み干し立ち上がる。レストラン以外にも忙しくしている島津は、朝も早い。湯飲みを置いて、ちひろは玄関までついていく。
「それじゃ、明日は頑張って下さいね」
「はい‥‥‥本当にありがとうございました。今まで、なにからなにまで」
「いえいえ。共同戦線がはれて、楽しかったです」
 事も無げにそう言う彼に、ちひろはぐっと手を握り締めて口を開く。
「絶対、受かってきますから」
 ぱちぱちと瞬きをして、島津はまたにっと笑った。
「その意気ですよ。それじゃ」
「はい、気をつけて」
 階段を降りていく背中を見送る。口の中でもう一度頑張ろうと呟いて、ちひろはドアを閉めた。



 〜数週間後〜

 精一杯身綺麗に装って、ちひろは高級レストランのテーブルに着いていた。
 一週間前から、今ここにいる事も含めて全部が、まだ夢のように感じられてならなかった。合格通知を受けとり、手続きを済ませた今でも。
 シャンパンのコルクが、島津の手の中で軽やかな音を立てて抜かれる。グラスに注がれていく淡いピンクから視線を離して、ちひろは島津を見上げた。
「島津さん、ありがとうございました」
「いえいえ、貴女の努力ですよぅ。ということで、今日は合格祝いです、ごゆっくりとお楽しみください」
 にこにこと笑いながらそう言って、島津はふと身を引いた。代わって登場したレストランの店長が、大きなバラの花束をちひろに渡す。あちらのお客様からです、そう示された先にいたのは、いつぞやのタクシーの運転手だった。結局リワマヒ国まで送ってくれた、うち解ければ気の良いおじさんだった人だ。笑顔で杯を上げられて、胸が詰まる。ぐっと息を飲み込んで、ちひろは震える声を押し出した。
「島津さんありがとう、店長さんありがとう、運転手さんありがとう・・・リワマヒ来てからいいことだらけですぅ・・・っ」
 流すまいと思っていたのに、やっぱり涙が転がり落ちる。子供みたいで嫌だなぁと思うのだけど、どうしようもない。
「こちらこそ、よい仕事ができました。何かのために一心に頑張る人の助けになれる、嬉しいものです」
 涙でぼやけているけれど、きっと彼は笑顔だろう。そう確信させてくれる、和やかな声だった。手の甲で涙をぬぐい、ちひろは応えて笑う。泣き止めないのは、もう諦める。
「はい〜・・・うう、島津さんもどうぞ飲んで下さい。お仕事中ですけど、お祝いですから一杯だけ。店長さんも、運転手さんも」
 涙で鼻が詰まってしまって、我ながらみっともない声だとも思う。けれど、嬉しさあまってそんな声になるのなら、それは本当に幸せなことだとも思った。
「ええ、勿論いただきますよ。そうですねぇ、何に乾杯しましょうか?」  
 新しくグラスを並べてそこへシャンパンを注ぎながら、島津がいたずらっぽい声音で訊いてくる。ずずっと鼻をすすり上げて一つ咳払いをし、ちひろはグラスを手に持った。他の3人が同じようにグラスを手に取るのを待って、一つ息を吸い込む。
「合格の祝杯と、支えてくださった方への感謝で・・・これからも頑張ります、ありがとうございました、では、乾杯!」
 その言葉と共に、グラスを掲げる。
「乾杯!」
 唱和の声が消えるのを待っていたかのように、ジャズバンドが軽やかな演奏を披露し始める。その浮き立つような旋律は祝福である以上に、ここを区切りとして新たな世界に旅立つ者へ送る、勇壮な行進曲に違いなかった。

 〜完〜

ここまでお読みいただき、どうもありがとうございました。

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