ちひろ@わかばのリワマヒ日記帳

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zoom RSS 【中編SS(希望)】とある旅人による、リマワヒ観光記(まだ途中)

<<   作成日時 : 2008/01/24 21:29   >>

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 幾つかのリンクゲートを抜けてたどり着いた国は、むわりと湿った熱気と芳醇な甘い香りの漂う熱帯の国だった。手元の観光案内によれば、「夏は熱帯、冬は大雪」という一風変わった気候の国なのだ。
 この国の名はリワマヒ国。テラ領域に幾つもある藩国の中でも、小国とされている。と同時に、共和国屈指の食糧生産国だとも。観光地としてはさほど見所のないこの国を休暇の旅行先に選んだのは、そのアンバランスさに惹かれてのことだ。
 それにしても暑い。暑いだけならばともかく、この湿度の高さは老骨には堪える。ただ立っているだけで、全身がじっとりと濡れていく感じさえする。サウナの中にでも放り込まれたような、そんな表現がしっくりくるほどだ。いくら着慣れているからといって、背広を着てきたのは大失敗だった。まずは入国管理局へ向かうべき だと判っていたが、過ごしやすい服を買う方が先かもしれない。このままでは、のぼせてしまう。
 かぶっていた中折れ帽を脱いで、気休めだとは思いつつぱたぱたと顔を仰ぐ。ふと気が付くと、いかにも南国の国らしい華やかで軽やかな服をまとった子供達が何人も、辺りに生い茂った木々の下に姿を見せていた。グレーの背広姿はこの国では浮いて見える。リンクゲートの前に立っていること以上に、私が旅行者だということ が伝わるだろう。
 目があった子供達は、一様に目を輝かせて笑い、私の側に寄ってきた。害意はないと両手を広げて示す間もなく、私はあっという間に子供達に囲まれていた。中には、小さな手を伸ばして私の腕をとろうとする子もいた。
 国によっては子供ですら警戒をする必要がある。しかしこの国では、その心配はまったく無用のようだった。勘のいい、とは決して言えない私だが、私を見上げてくる子供達のないきらきらした瞳に邪念を感じるとしたら、よっぽど世をすねたひねくれ者だろうと思わざるを得ない。
「お客様? お客様なの?」
 腕を引く幼い子は、そうであればいいと期待を込めるように弾む声でそう繰り返す。つり込まれるように、私は微笑んでいた。
「そうだよ。短い間だけど、やっかいになるね」
 私の言葉に、わあっと歓声が上がった。両手を天に向けてぴょんぴょん跳ね回っている子さえいる。何故こんなに喜んでくれるのか不思議だが、嫌な気はしなかった。
 その頃には、子供達の声を聞きつけてか私の周りに大人も集まってきていたが、その日に灼けた顔に浮かぶ表情は皆子供と同じような、心から嬉しげなものばかりだった。私が旅行者と見極めていたとしても、この底抜けの歓迎ムードにはいささか面食らわされる。誰か一人か二人くらいは、不審げな顔をしても良さそうなものだ が。
「いらっしゃい、リワマヒ国へようこそ!」
「こたつと食の国リワマヒは、貴方を歓迎します!」
 私を取り囲んだ大人も子供も皆、嬉しくてたまらないというような笑顔でそう口々に告げてくる。まるで私が、待ちわびていた幸福の使者だとでもいうように。
「あ、ああ……ありがとうございます」
 ここまでストレートな歓迎の言葉、それも心からのものだと一目でしれる言葉は、今日日観光立国ですら滅多に聞くことは出来ないだろう。いささか面はゆいような気持ちで、私は礼の言葉を口にした。その言葉を聞いて、大人も子供もいっそう笑みを深くする。
「すみませんが、入国管理局はどちらにあるんでしょう? 私、たった今ついたばかりなものですから」
 歓迎ムード一色の空気に甘えて(といってもどちらにしろこの状況では誰かに訊くしかないのだけれど)、私はまず手続きをすませておかなければならない場所への行き先を尋ねた。彼らは顔を見合わせて、それからまた私を安心させようとするように満開の笑顔を咲かせた。
「連れて行ってさし上げますよ。ここからだと、リワマヒ名物長城に上がってから行く形になるんですよ」
 年かさの男が、そう言ってさあさあというように手を振った。
「いや、そんなお手数をおかけするわけには」
 記述を忘れていたが、今は平日の昼間だ。子供達はともかく、ここにいる大人達はみんな仕事の手を止めてここに来てしまっているに違いない。これ以上邪魔をしてしまうのは忍びない……そんな気持ちで手を振ったのだが、彼らはそれを聞くとなおさら笑顔で私に群がってきた。まぁまぁいいからいいからというような身振り手 振りで、しまいには私の荷物を取り上げ、彼らはぞろぞろと歩き出してしまう。まるで御輿にでも乗せられたような騒ぎだ。
「お前達、何人かでちょっと行って、審査官殿にお客様が到着したって伝えてきな。おもてなしの準備をした方がいいってね」
 私の手から取ったトランクを軽々と抱えた中年の女性が、前を走る子供達にそう指令を飛ばす。子供達はわっと歓声を上げて一散に走り出した。その背はみるみる小さくなっていく。
 入国審査官の仕事に観光客をもてなすことは入るのだろうか……そんな疑問を覚えつつ、私は陽気に話しかけてくる彼らと共に、馥郁たる香りに満ち溢れた空気の中を進んでいった。

 入国管理局で私を待っていたのは、物腰の柔らかい青年だった。小柄な体格の人種が多いらしいこの国の中では随分と鍛えられた体躯をしている。恐らくはここでなにか生じたときに身体を張って止められるようにとなされた配属なのだろうが、こちらに向けられる笑顔は他の人々と同じようにのほほんとしたものだ。
 この仕事も久しぶりだなぁ、そんなことを言いながら、彼はてきぱきと書類を作っていく。
「ご滞在の目的は、観光ですね」
「はい」
 頷くと、ぱちぱちと瞬いた目に僅かに好奇の色が滲んだ。審査官からしてこの表情とは、日頃本当に旅行者が少ないのだろう。
「私は歴史や古代の遺跡などが好きでして。こちらにも一風変わった遺跡があると聞きましてね。こうして訪ねてきたわけです」
「遺跡ですか。そうですね、サカサコタツ遺跡を初めとして、我が国にも遺跡は多数あります。もっとも植物の繁殖が盛んな土地柄もあって、なかなか調査は進んでいないのが現状ですが」
「そこです」
 私は手を打った。実はガイドブックを読んで不思議に思ったことの一つがそれだった。
 リワマヒ国はおそらくどの国にもまして寒暖の差が激しい。今のような夏季は熱帯気候。そうして冬季は何メートルもの積雪に国土全体が覆われ、海からは流氷が押し寄せる。そして初夏は洪水に国土の半ばが水没する。こんなある意味冗談のような気候のこの国では、その洪水によって運ばれた肥沃な土壌の賜物で、植物…… 特にシダやツタ類が異常繁殖するというのだ。リワマヒウラジロという種などは、互いに絡み合って伸びる高さは10メートルにもなるという。
「本当なんですか?」
 疑うわけではない……いや、疑っているのか、私は。文言で読んだところで、想像もつきがたい。この目で見なければ、とても信じる気にはなれない。
 私の、ある意味無礼な質問を、審査官の青年は気にした様子もなく笑顔で頷いてよこした。
「ええ。丁度今の季節でしたら、ご覧になれますよ」
 ご覧になれると言われても、では早速、という気持ちにはなれない。そもそも私は、遺跡は好きだが遺跡に絡まるツタはあまり好きではないのだ。だが、ここでそれを口にするのは無礼の上塗りになりそうな気がして、私は笑顔で頷くにとどめた。
 青年は書類にスタンプを押して、私にそれを差し出した。
「手続きはこれで完了です。リワマヒ国にようこそ。私たちリワマヒ国民は、貴方を歓迎いたします。どうぞ楽しいご滞在を」
「ありがとう」
 受け取って鞄にしまう。ついでに詳細ガイドマップのようなものはないか尋ねようとした私に、青年は笑顔を絶やさないままとんでもないことを言い出した。
「もしも当国の藩王への面会をご希望の場合、特に届けは必要ありませんのでそのまま宮城へいらして下さい」
「……なんだって?」
 耳を疑うとはこのことだろう。私は唖然として青年を見返した。まさか一国の王が、ふらりとやってきた旅人に簡単に謁見を許すはずもない。私の聞き間違いに違いない。
 だが青年は、なにもおかしな事は言っていないと言わんばかりの堂々たる態度で、もう一度同じ台詞を繰り返した。
 ……これはいったい、どういうことだ? 何の謎かけなのだろうか。それともやはり、私は気がつかないうちに彼の逆鱗に触れたのだろうか。だから、国王の前に出るなどという途方もない話を持ちかけられているのだろうか。
 風俗風習が異なる人々に接するときには気をつけなければならない、今までの旅でもそう常々肝に銘じてきていたのだが、あまりに青年が普通なのでついいつもの調子でこちらも話をしてしまっていた。自分でも気付かないうちに、なにか踏み越えてしまった……のだろうか、私は。
 得体の知れない分だけ妙に恐ろしくなって、私は笑顔でお辞儀してくれた青年の前から這々の体で逃げ出した。

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