ちひろ@わかばのリワマヒ日記帳

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zoom RSS 【中編SS】とある旅人による、リマワヒ観光記(もうちょい)

<<   作成日時 : 2008/02/05 19:52   >>

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 もう一つずつコロッケを買って、店舗代わりだろう野菜や果物を満載した舟がたまる川岸を進み、取っつきの船着き場から渡し船に乗る。セイルを張った小型船は陸から吹き抜ける風を受けて、陽光を反射しきらめく海上をしずしずと進み始めた。
「風のない時はどうするんです?」
 軌になって船長らしき人物に尋ねると、彼はからからと笑ってエンジンはついていることを教えてくれた。
「だがまぁ、せっかく風があるなら利用する方がいいじゃねぇか。その方が気持ちいいしな」
「ええ……それはわかります」
 確かにこんな天気のいい日に、白い帆を張った船で海を行くのは、なんともいえずわくわくさせられる。対岸にあるリワマヒランドという遊園地に行くのだろう、甲板にはけっこうな数の親子連れの姿があり、みゃーみゃーと鳴きながら飛び交うウミネコたちに餌をまいてははしゃいでいた。
「市場の舟溜まりにいた舟もみんなそうだ。小型のモーターを取り付けていて、風のない日はそれでリワマヒ川を行ったり来たりすんのさ。その方が環境にいいしな」
「それは、確かに」
「藩王様がな、勿論人間が生きていくのが大事だが、むやみやたらと自然を破壊するようなことは避けようって方針の方なのさ。だからおいら達は、出来るだけ自然の力を利用する。そりゃもう、暗黙の了解ってやつでな」
「なるほど……」
 目にまぶしいくらいの白いセイルは丸くふくらんで、ただそれだけなのに気持ちが子供に還っていくようだ。雑事が心からするすると解け落ちて、すっきりとシンプルな自分に立ち返っていくよう。そんな効果さえも、計算されてのことなのだろうか……いや、まさか。
「この国の王様は、随分と行き届いた方なのですね」
 それは、国民の様子を見ていれば判る。また豪快に笑って、船長は強い力で私の肩を叩いた。
「そうさ、いい方だぜ? おいらもよく話をするがね」
「……よく?」
 ほろりと紡がれた台詞に、私は思わず彼の日に焼けた銅色の顔を見返してしまった。この船長は、御座船の船長でもやっているのだろうか。
「なんかあったら宮城に行けば、会っていただけるからね。おいら達はみんなそうさ」
「……」
 昨日、監査官の青年に言われたことが頭の中に蘇る。
「そんなに気軽に、会えるものなんですか?」
「おうよ。いらっしゃらない時でも摂政様達が常に詰めてらっしゃるから、待たされることもねぇしなぁ」
 ……なんというか、絶句させられる。あの青年の言ったことは、では本当に本当だったのか。しかし……一国の為政者が、そう簡単に民の前に現れて大丈夫なものなのだろうか。
「おおっと、そろそろ着くぜ。そうだ、お前さんはどこへ行くんだい? リワマヒランドって風にゃあ見えねぇが」
「ああ……私は、サカサコタツ遺構に」
「そうか。なら桟橋からシクロに乗ればいい。でかいから勘違いしやすいが、けっこう歩くぜ」
 そんな風に教えてくれた船長が、ほらと指さす先を振り返り、私はまた絶句した。遊園地の観覧車の見上げるほどの丸い円さえ小さく見える。ガイドブックに載っていた写真の通りの、しかし想像以上に巨大な建造物。どんな材質で出来ているのか未だに謎だと言われる鈍色の外殻が、太陽の光にきらめいている。
「これが……」
 今までいろいろな藩国の遺跡を見てきたが、こんな不思議なものを見るのは初めてだ。いったい誰が、いや、どんな文明が、なにを目的としてこのようなものを造ったのか。
「先生、行こうよ」
 楽しげに甲板をうろうろしていたリオくんが、戻ってきて私の服の袖口を掴む。それに引っ張られるように動きつつ、私はその古代建造物から目を離す事が出来なかった。

 間近で見れば見る程、その遺跡は異様なものだった。巨大な四角錐を四つ並べて逆さにしたような形状。その錘の先端をそれぞれ支えるようにして、大地から四本の柱が伸びている。
 この遺跡もまた、他の遺跡同様に不明なところだらけらしい。まぁ戦争で調査どころではないというのが、本当のところだろう。
 正面の広場で足を止め、私は額や首筋の汗をぬぐいながらリオくんに話しかける。
「ここで年に二回、天鎮祭が行われるんだよね」
「そうだよ」
「見た事はある?」
「うん」
 リワマヒ国で年に2回夏と冬に盛大に開かれる祭祀「天鎮祭」は、この国随一の重要行事だということだ。このときばかりは観光客も大量に訪れ、国全体が荘厳でいながら華やかな空気に包まれるという。
 本当は私もその時期に来たかった。夏は洪水、冬は降雪、この国の自然は特筆に値する厳しさを持っている。それをそれぞれ鎮める目的で昔から行われているという祭は、さぞかし見応えのあるものに違いない。国民にとっては一年の無事を祈る重要な行事なのだから、この言い方は外部の人間ならではの不謹慎さというものかもしれないが。
 祭の最中には人で埋まるのだろう広場は、しかし今は強い日差しに白く陽炎立つ無人の原で、吹きさらしのうら寂しさを感じさせずにはおかない。辺りを見回しても、私たち以外に人の姿はなかった。遠くから風に乗って、リワマヒランドに集まった人たちの歓声が聞こえてくるばかりだ。
 改めて、遺構を見上げる。ホテルの部屋や長城からも、遺跡らしき建造物はちらほらと見えていたが、その大半は朽ちたような状態になっていた。しかしこの遺跡は違った。「天鎮祭」にも利用する関係で、メンテナンスが行われているのかもしれない。
 こうして真下から見上げると、まさしく天を覆うような遺構だ。一体誰が、なんの目的で……またしてもこみ上げてきた感慨を胸に、ゆっくりと歩を進める。広場の片隅に突き出た座り心地のよさそうな岩に腰掛けて、そうしてまた、違う思いにも囚われる。
 この遺構は前時代のものだという。今のリワマヒ国民達は、誰もその本来の目的を知らない。そしてその一方で「天鎮祭」という最重要な祭の祭壇を、この遺構に求めた。そう定めた最初の人物の胸によぎったものはなんだったのだろう。どのようなひらめきが、ここを祭祀の場所に定めたのだろう。
 もしそんな機会があるとして聞くことが叶ったとしても、案外返ってくる答えはなんとなく相応しい気がしたとか、せっかくあるんだから活用した方がいいだろうとか、そんなものになるかもしれない。それこそ、遺物の一つであるはずの長城を今大規模な交通網として利用しているのと同じように。のんびりとたゆたう時に流されているように見えて、なかなかどうしてこの国の民は堅実だ。
 前時代にここに住んでいた人々と今の彼らとの間に、つながりがあるのかも判らない。だが、もしかしてつながりがあるのだとしたら、その血に残るほんの微かな記憶の残滓が、その人々をしてこの地を祭祀の場所に選ばせたのかもしれない。そう考えると、なにやらわくわくしてくるじゃないか。それこそが、歴史を思う醍醐味だ。
 足下に置いたペットボトルを時たま傾けながらそんなことを考え耽り、一体どのくらい時間が流れたのか……ふと気がつくと、僅かばかり日が傾きだしていた。我に返ると同時にここまで案内してくれた少年のことをようやく思い出し、私は慌てて立ち上がった。
「リオくん?」
 名を呼ぶ。広場には勿論、その周囲にも、その小柄な姿は見つけられなかった。悪いことをしてしまったなと、改めて思いながら再度名を呼んだ。私はともかく、彼にはこの場にいることは随分と退屈なことだったに違いない。
「リオくん、どこだい。もういいよ、帰ろう」
 姿の見えない彼に、そう呼びかける声を上げながら歩く。小高い丘のようになった広場のはずれまで来てふと下に目を向けると、砂浜にうずくまっている小さな背中が見えた。両手をメガホンのようにして、私はもう一度声をかける。
「リオくん!」
 跳ね上がるような俊敏な動きで、リオくんは私を振り返った。どうにもへっぴり腰に、私は次第に砂が多くなっていく丘を下りていく。
「待たせたね。どうしたんだい、こんな……」
 ところで、そう続けようとした私の言葉を遮るように、リオくんは両手を突き出す。広げられたそこに、大きな貝がごろごろと乗っている。
「持って帰って、母さんにあげようと思ってさ」
 嬉しげにそう話す少年の手を見つめたまま、私はようよう声を絞り出した。やはりそれも、なんの変哲もない散文的なものだったが、正直他に言いようがなかった。豊饒たる陸地ばかりに目がいきがちだが、リワマヒの海もまた命の恵み深い世界なのだ。彼らはリワマヒ湾を城前と呼び、新鮮な魚介類は日々市場へと並ぶ。
 そうとはガイドブックで読んでいたものの、こんな風に無造作に見せつけられると、やはり驚きだ。
「……凄いね……こんなものも採れるのか」
「ここも城前の一部だからね。まだそこら辺にごろごろしてるよ」
 持参していたらしい小振りの袋にそれらをざらざらと落とし込みながら、リオくんは私に向かって首をかしげた。
「で、もういいの?」
「ああ」
「そう。じゃ、もう一つ見ていかない?」
「え?」
 唐突な提案に思わず聞き返してしまった私に、リオくんはふと手を伸ばして少し離れたところに立っている塔のようなものを指さした。
「あそこまでさ、一緒に行こうよ。あれも先生の好きな遺跡だよ。でもって、上まで上れるんだ」
「へぇ……それはいいな」
 手を入れて上れるようにしてある遺跡があるとは読んで知っていたが、それがこんな近くだったとは思わなかった。正直読み落としていた。
「だろ? じゃ、行ってみよう」
 リオくんは我が意を得たりというように大きく頷いて、また私の先に立って軽やかに歩き出した。

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