ちひろ@わかばのリワマヒ日記帳

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zoom RSS 2/16ゲームログベースのSS 「遙か遠き道」-1-(3/5一部修正)

<<   作成日時 : 2008/03/04 23:24   >>

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 担当官は、書類作成の手を止めて、八十島を見上げてきた。あんまりしげしげと眺めるので、なんとなく居心地が悪くなるほどだった。
「あの、手が止まってますけど」
 どうかしたんですか、という続きの言葉を、相手のむっとした表情に飲み込む。またかたかたとキーを叩き出しながら、担当官は先ほどよりも熱度の減った声を八十島に向けた。
「希望の兵科は医療兵。付記、看護学校を今年の春卒業予定、と」
「はい」
 そこは強く頷く。技能を持っている場合希望はほぼ通るだろうと聞いているが、強調しておくに越したことはない。こちらの熱意にもやはり気のない様子を崩さずに、担当官は尚も幾つかの質問を重ね、最後に頷いた。
「登録は以上で完了です。追って所属部隊の通達が行きますので、それを持って指示された場所に出頭してください」
「はい、ありがとうございました」
 一礼に担当官は気のない様子で頷くと、彼女の後ろに立つひょろりとした少年に「次の人」と声をかけた。


 通達は二日後に届いた。広島の、聞いたことのない地名が書かれている。それを何度も読み返して、八十島は思いついて中学時代に使っていた地図帳を納戸から引っ張り出した。
 指先で鉄道の線を辿る。標高で塗り分けられた広島の地図を見ている間に少しずつ、一度は削がれた強い決意が蘇ってくる。
「……あの人、ちゃんと手続きしてくれたんだ」
 決意も過ぎて浮かれてしまいそうな意識を、そんな言葉で押さえ付ける。あの時の妙な空気を思い出して、八十島は顔をしかめた。
 遊び半分と思われたのだろうか。だが、テレビの画面に映し出された戦場の凄惨な光景に、負傷してまともな手当も受けられていない兵士達に、どうしてもあそこに行かなければと思ったのだ。自分を思い止まらせようとした看護学校の先輩の作戦は、その意味では完全に裏目に出たわけだ。
 病院に搬送されてくる兵士などごく一部にすぎない。戦場にこそ、治療の必要な兵士がいる。ならば、そこにいくしかないじゃないか。
 自分は間違っていない……そう自らに言い聞かせて、八十島は己の決意を確かなものにするために、ぐっと強く胸の前で手を握った。


 立花は小隊用に用意されているロッカールーム(といっても、避難で放棄された中学校の校舎なのだが)で、装備の点検と掃除を行っていた。九七式突撃銃はいい小銃だが、部品数が多いだけに故障しやすい。その上学兵に渡る銃など、自衛軍下げ渡しの粗悪品だ。下手をすれば最初から故障、最悪の場合は引き金を引いた途端に暴発することだって有り得る。
 誰かの物になってからならともかく、今は小隊全体の物なのだから、きちんとしておくにこしたことはない。ましてや今日配属になる新入りは、医療兵だというのだから。この時期にここに配属になるくらいなのだ。まともな訓練を受けているかも怪しい。
 一つ頭を振って、立花はそれ以上考えることを放棄した。そういうことは隊長である東が考えればいいことだ。自分はとにかく、その新入りがこの銃を触ったときに怪我をしないようにしておいてやる、それだけでいい。
 分解した部品を、黙々と磨く。そういう時間は嫌いではなかった。校舎という場所がそうさせるのか、自然と心が巻き戻る。
 机を並べて学んだ友人達は、今頃どこで戦っているだろう。最初の戦場では肩を並べて戦っていたが、気がつくと離ればなれになって、そうして今は自分は一人、この混成小隊に配属されている。
 これもやはり運命というものだろう。互いに同じ戦場の空の下、縁があったらまた会える。それでいい、いつしかそう思うようになっていた。
 いつの間にか止めてしまった手に気付き、立花は一つ息を吐き出して掃除を再開する。わずかに開いた制服の胸元には、短い縁の内に彼を先生と慕ってくれた子供達から贈られた、手作りの素焼きのメダルが覗いていた。


 軍高官である父親の恩恵は、こんなところにも発揮される……小さくハミングしながら、夢野はクッキーの種をこねつつ思う。今時本物の砂糖やバター、小麦粉なんて、そうそう簡単には手に入らない。だが、父親のに頼めばそれらはあっという間に手に入る。まるで魔法の様だ。
 それが娘可愛さの贔屓から生じることも、夢野には判っていた。だから自分の為には、あまりこの手段は使わないようにしているのだ。
 故に、明日は彼女にとって特別な日だった。
 小隊に、新しく医療兵が配属されるのだ。今まで、部隊に医療兵がいたことはなかった。しかも女性だという。万年不機嫌な東や感情をあまり表に出さない立花がどう考えているかはしらないが、夢野的には絶対歓迎なのだ。仲良くなりたい。小さい頃からずっと家と病院の往復を続けていた夢野にとって、女友達は憧れの存在だった。
「甘いものは、食べるだけで幸せになれるものね」
 きっとその人の心も溶かしてくれるだろう。
「……っ」
 不意に込み上げてきた咳の発作に、夢野は慌てて調理台から離れた。つんのめるようにうずくまって、暫く肺や喉を叩く衝撃を堪える。いつものように、やがて苦痛は潮が引くように去り、夢野はハンカチで口元を拭いてカーディガンを羽織り直しながら立ち上がった。
「……いけない、生地が乾いちゃう」
 慌てて手を洗い直して、調理台に向き直る。これは新しい仲間を結び付ける魔法のアイテムなのだから、失敗するわけにはいかない。
 再び種をこねながら、夢野はハミングを再開した。今は亡き母親に幼い頃口伝えされた、優しい子守歌だった。
 彼女は知らない、その記憶もなにもかも、ほんの二年前に造られたものだということを。自分が母の腹ではなく、培養液の中で育ったことを。


 とにかく、絶対的に火力が足りない。車両などという贅沢は言わない。だが、せめてゾンビ避けの迫撃砲が、それも駄目なら小隊機銃が欲しい。
 もはやそれがデフォルトになってしまった感のある不機嫌な表情で、東は部隊表を見下ろしていた。
 寄せ集めの混成小隊、その隊長に任命されたのはいいが、人数は通常の半分、火器も必要最低限となれば、頭を悩ませない方がどうかしている。
 所詮は書類の上の数合わせ、 戦果など端から期待されていないのは判り切っている。だがそれでも、なにかの弾みに劣悪な任務を命じられないとは限らない……自分の、兄のように。
 そのことに思いを馳せるときにいつもそうであるように、東の目に暗い陰りが生まれる。凍えた眼差しは机の上の書類を突き抜け、遥か遠い時空を捕らえようとしていた。
 彼の兄は拠点防御を命じられ、浸透してきたゴブリンに仲間ともども蹂躙された。その体は原形を留めぬ肉片と化したと、入隊した後で聞かされた。遺体は帰ってこなかったから、それは本当なのだろう。
 その日からずっと、今も胸に冷たいシコリがある。止める親を振り切って志願兵となったあとも、その冷たい痛みは消える様子もなく、むしろよりいっそう存在感を増している気がした。
 だが、隊員達を自分の復讐心の道連れにするわけにはいかない。それは、自明の理だ。
「……っ」
 忌ま忌ましげな舌打ちを一つ。明日やってくる医療兵も、事務官として回されてきた病弱な女の子も、扱い上は新兵だ。戦場に出たこともない女子を二人も抱えて、この装備でいったい何が出来るのか。いや、そもそも出来る作戦を選ぶ余地などありはしないのだが。
 今まで出会った隊長クラスが軒並み胃をおかしくしていた理由を、東はようやく理解していた……理解など、したくもなかったが。


 夕暮れを裂くようなサイレンの音に、山内が顔を上げる。時計で時間を確認し直して、五十嵐が山内に笑いかけた。
「あ〜、もう帰る時間か」
「そうだね、残念ながら」
 豊満な体格に似合わぬ機敏さで高い段差を飛び降り、山内は空を見上げた。横顔に、ほんの微かな焦燥と失望が、いつものようにうっすらと流れる。今日もまた、なんの手がかりもないまま一日が終わろうとしていた。
 見慣れたその動作に、倉田と五十嵐は顔を見合わせた。二人とも持ちうる限りの技能とコネでもって後押ししているが、それにもかかわらず山内の盟友の行方は、未だにしれていない。
「……そうそう、二人とも。明日は小隊の方に顔を出すから」
 二人に背中を向けたまま、山内は唐突にそう告げる。一瞬前まで感じていただろう苦さは、微塵も感じられない声だ。ふ、と笑みをこぼして倉田は敬礼する。
「了解しました」
「はい、俺も了解……でも、どうかしたん?」
「あれ、二人とも忘れちゃったか、明日医療兵が配属されるだろ? 挨拶しておかないと」
 首だけ巡らせて山内は二人に笑いかけ、すたすたと坂道を下り始める。倉田は慌てて無線機を片付け終え、待っていた五十嵐と二人、山内の後を追った。
「その調子じゃ、女の子だって事も忘れてるだろ、五十嵐」
「女の子かぁ……可愛い子かなぁ……」
 そんなことを呟きながらも、五十嵐は早くも鼻の下を伸ばしている。盛大に妄想に浸っている様子の同僚に白い目を向け、倉田は足を速めた。
「でも、その子志願兵なんですよね」
「そう。まぁ……奇特だよね」
 言葉を選ぶようにそう呟いて、山内は憂い顔をまた空へと向けた。
 ともあれこれで小隊としての体裁はほぼ整ったと言える。人数は少ないが、だからといってのんびり遊ばせていられるような状況でもないだろう。得体の未だに知れない敵、幻獣の侵攻に対し、この広島の戦線はぎりぎりの均衡で持ち堪えている。
 今の小隊に配属されて、多少の時間は稼げた。だが、下手をすれば明日からまた戦場に出ることになるだろう。もう何度も戦火をくぐって、そのことに対する覚悟はそれなりに決まっている。だからといって、嫌なことには変わらない。
 いったいいつまで、この戦争は続くのか。その問いに答えられる人間は、この地上に一人もいないだろう。そうと判ってはいるけれど。
 知らず深い溜息をついてから、山内は丸い体で精一杯肩をそびやかす。弱気の虫は厳禁だ。自分は生きて必ず、もう一度あいつと再会するのだから。
「それじゃ二人とも、また明日」
 曲がり角で二人の部下に手を振り、山内は自分の家に向かって駆けだした。

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
私の参加してたセッションをこんなに素敵なSSにしてくださって、どうもありがとうございます。
うちの父も、大変喜んでいます。
特に私のシーンのハミングが気に入ったみたい。
本当は聞いたことのない子守唄、本当は会ったこともない母親の大事な思い出、ってあたりがグッとくるんですって。

ただ、残念なことに、私の恋心について言及している件は、…すみません、リテイクです。
父が言うには、設定と矛盾が生じるらしいんです。
他人が書いたストーリーに嘴を挟むなんてマナー違反だって、私からも説明したんだけれど、頑として譲らないの。
何でも、ネタバレになるから人目のあるところでは説明できない、の一点張りで…。
ごめんなさいね、我儘な父で。
今度、機会があったらメッセンジャーで捕まえて、とっちめてやってください。
リテイクの理由、私も知りたいし。

最後になりましたが、SSの続き、私も父も楽しみにしているんで、ぜひ早いうちに読ませてくださいね。
期待して待ってます♪

追伸
女の子の喋り方が難しいって、父が愚痴ってました。
もしかしてコツがあったら、伝授してやってください。
夢野沙織
2008/03/05 20:49
夢野さん、こんばんは(笑)。読んでいただきありがとうございました。
ゲームの中でもお母さんのことに台詞内で言及されていたんで、多分お母さんのことが大好きで、いい家族で育ったんだろうなと思い、あんな形で書かせていただきました。気に入っていただけて何よりです。
それとリテイクの部分はとりあえずばっさりと削りました。代わりになにか書き足せれば良かったんですが、咄嗟には出てこない・・・ので、後半書きながら考えてみます。にしても、設定矛盾ですか・・・う〜む、思いつかない。今度ひっそり教えてください。

続きは〜・・・かなり陰惨なことになるかもなので、あらかじめ謝っておきます、ごめんなさい。その上で、期待に添えるように頑張りますね〜。
ちなみに女の子の喋り方については、私も苦手です〜(笑)。リアル女子は、あんまり女の子っぽい喋り方はしないですね・・・って、私の周りだけがそうなのかもですが(汗)。
ちひろ
2008/03/05 21:50

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