ちひろ@わかばのリワマヒ日記帳

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zoom RSS 2/16ゲームログベースのSS 「遙か遠き道」-2-

<<   作成日時 : 2008/03/20 17:24   >>

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 小隊集合、ロッカー室にて待機--------その指令が入ったのは今朝のことだった。だが、その指令を出した当の本人は、なかなか部屋に来る様子を見せなかった。
「東隊長、遅いですよねぇ」
「……そうだね」
 もう何度目かになる医療装備の点検をする八十島のすぐ側で、パイプ椅子にきちんと腰を下ろした夢野が時計を見上げながら呟いた。装備品から目を離さずに、八十島が短く答える。八十島はいたって無口で無表情な娘だったが、夢野はなぜか最初に会ったときから彼女に懐いていた。元々人懐っこい娘ではあったが、今では常に八十島の側に陣取って先輩先輩と話し掛け続けている。
「任務って、どんなことになるんでしょうね」
「……さぁ、判らない」
 二人とも緊張しているんだな、途切れがちながら飽かず続けられているやり取りを目を閉じたまま聞きながら、立花はそうと気がつく。無理もない、二人ともこの作戦……まだどんなものかは判らないが、それが初陣なのだ。しかも、人数が足りないばかりに、普通なら行軍の必要のない事務官の夢野まで出撃させられる事態が不可避だ。身の危険が低い事を見越して事務官になることを許した父親は、恐らく学兵の実態を知らないのだろう。
 この二人には注意しておこう、立花はそう自分の意識に刻む。他のメンバーは、自分の面倒くらいは自分で見られる。だが、あの二人は。
 自分とて百戦練磨というわけでは勿論ないが、それでも彼女らよりはましだ。なんとか守って、無事に戻してやりたい。
 不意に場に声が上がって、明るい雰囲気が生まれる。さっきから夢野にちょっかいをかけていた五十嵐が、倉田にどつかれたところだった。大袈裟な声をあげる五十嵐に倉田が冷たい一言を浴びせ掛ける。顔を赤くして後ろに隠れる夢野を、八十島はぎこちなくだが庇っているようだった。だがそれもすぐに崩れ、二人は五十嵐倉田の漫才のようなやり取りに笑い出した。
 自然に口元が笑う。五十嵐のような奴は貴重だ。バカでがさつな振りをして、隊の空気を軽くしている。倉田の方も十分それを理解してそれに乗っている。
 それにしても、こんな二人を部下に持っている山内とは一体何者だろう。書類上の扱いはそうなっていなくとも、二人の立ち振る舞いを見ているとそのことはよく判る。
 視線をそっと巡らせる。山内は窓辺に寄り掛かって、ぼんやり外を眺めていた。背は低く一見肥満体型に見えるが、見るべき人間が見れば重戦車のように頑健な体躯と判る。明らかに、自分より強い。値踏みするまでもなく、それは判っていた。
 東が気にする気持ちも判る。自分より経験抱負で序列からいっても上だろう人間が、あっさり隊長職を投げ出すとは、尋常じゃない。面倒だからなどと言っていたらしいが、どこまでが本心なのかと疑わない方がおかしい。
 とはいえ、実のところ立花はさほど心配をしていない。山内にも他の二人にも、嫌な空気を感じないからだ。隊内が円滑にいくように気遣っている節さえ感じられる。ならば、今のままでいい。東がどう考えているかまでは、判らないが。


「失礼します」
 敬礼して、東は中隊の司令室(といっても只の教室だが)を出た。自分達に割り当てられたロッカールームに向かう間、盛大に顔をしかめて歩く。
 与えられた任務は人探し、だそうだ。避難しそびれた子供を助けるために、幻獣の支配地域に忍び込むことになる。
 任務に非難や不満など持つのはよろしくない、ましてや今回のように人道的かつうまく立ち回れば一戦も交えず帰投出来るかもしれないかもしれない任務に。そうは判っていつつも、眉間の皺は晴れない。
 そんなに幻獣と戦いたかったのか……そう自問して、考えるまでもなく返った答に更に皺は深くなる。どうやら、そうらしい。幻獣に見つかれば失敗、そんな任務ではなく、一匹でも多く奴らを殺す事が出来るようなそんな任務をこそ、自分は欲していた。
「……馬鹿な」
 思わず呟いた唇が、笑みの形に歪む。ここ数日頭を悩ませ続けていたのは、自分の隊の練度不足と貧弱な装備故ではなかったのか。その状態で幻獣達と戦うことなど、そうそう出来るはずもない。
 冷静さを取り戻せ……そう自分に言い聞かせて、東は辿り着いたロッカールームのドアを開ける。中にいた隊員達の視線を全身に感じながら、彼はいつも通りの不機嫌そうな無表情で中に足を踏み入れる。彼らからほんの少し距離を取った位置で立ち止まり、東は全員を一度見回した。
「出撃が決まりました。今回の任務は、逃げ遅れた子供の救出です」
 告げた瞬間、緊張に満ちていた空気の色合いがふっと変わる。山内や立花といった面々の表情にさほどの変化はないが、夢野と八十島は明らかにほっとした様子を見せている。ただの戦闘ではないことが、心理的負担を軽減させているのだろう……そんな風に見定めつつ、東は貰った地図を開いてホワイトボードに貼り付けた。
「作戦区域はここです。既に幻獣の支配地域になっていますから、なるべく見つからないように行動するとしても、戦闘になる可能性はかなり高い……夢野さん、どうかしましたか?」
 考え込むような表情でふらりと近寄ってきた夢野に、東は説明を中断した。それにすぐには答えずに指を伸ばし地図に触れ、夢野は複雑そうな笑顔で東を振り向いた。
「私、この辺り判ります」
 唐突な言葉に、東は眉を潜めた。
「判る?」
 一つ頷いた夢野は、どこか夢を見ているようなうっすらとした笑みで、指先を走らせる。
「私、ここの町の生まれなの。ここにあるコンビニも、学校帰りによく立ち読みした場所」
 懐かしい……そう呟いて地図を見つめる夢野を、一同は複雑な眼差しで見守る。住家や親しい人を幻獣に奪われた経験はこの場のほとんどの人間にあるが、自身手が届かない過去を汚されるというのは、また少し趣が違う。
「そっか、夢野さんの故郷かぁ。なら、そんな不埒な輩はさっさとおっぱらわなけりゃな」
「不埒な輩って、あんたはいつの生まれだ」
「私達の任務は救出ですよ。追い払うのは自衛軍の仕事です」
 全く違う方向の突っ込みをダブルで食らって、五十嵐はぺろりと舌を出す。一つ咳ばらいをしてから、東は与えられた資料に目を落とす。
「この任務は、避難所の母親の訴えにより起こされました。私達より前に一部隊が投入されています。彼らは目的達成できませんでしたが、情報は持ち帰ってくれました」
「で、俺達にお鉢が回ってきたって事ですね」
 五十嵐の軽い言い回しに、東は不機嫌な表情のまま頷く。
「幻獣と接触する確率が高いというのも、彼らからの情報です。救出任務な以上、出来るだけ気付かれない行動が望ましいですが」
「隊長」
 話の腰を折られて、東は僅かに顔をしかめながら相手を見返した。自衛軍なら、今の振る舞いだけで懲罰ものだ。
「なんでしょう、八十島さん」
 東に負けず劣らずの険しい眼差しで、八十島は全員の視線を跳ね返すような硬い声を発した。誰の目から見ても、力が入りすぎているのは明らかだ。
「救出しなければならない子供の情報をいただけますか」
「……名前は三角心、ここにある」
 鋭く息を飲む音にまたしても発言を断ち切られ、東は半ばうんざりしつつそちらに目を向け……眉を潜めた。真剣な眼差しを東に向けていた八十島も、驚いたように傍らへ視線を向ける。
 全員の注目に気付いた様子もなく、夢野は青ざめた顔を震える指先でゆっくりと覆った。


 区域ぎりぎりまでトラックで近寄り、彼らは装備を抱えて半分瓦礫と化した住宅地に降り立った。ここから先は隠密行動が要求されるため、車両は使えない。
「三角君、必ず助けてあげるから、沙織ねえちゃんを待っててね」
 眦をきりっとつり上げた強い決意の表情で、夢野は辺りを見回す。97式突撃銃を持った手が微かに震えているのはどんな重みのせいなのか。その横に寄り添うように立って、八十島がやはり硬い表情で話しかけた。
「彼の家は、お寺だったわね。どっちの方向?」
「あっちね。三角くんのおうちは、この辺では有名なお寺よ」
 彼女が指さす方向に一度頷いて、八十島は歩き出す。それに続くように、夢野も崩れたブロック塀を避けて歩いていく。
「坊主の子ってからかわれて、三角くん、よくしょげてた。少し内気な子だったから……」
 ウォードレスを着ていても学生の下校風景と何ら変わらない、無防備極まりない後ろ姿に、東は額を押さえた。軍隊の行動というものを、二人ともまるで理解していない。自分の命令前に動いたことはともかくとして、歩き方一つマスターしていないとは。
「隊長、俺が」
 機関銃を手にした立花が、短くそう言いながら目で合図してくる。溜息を噛み殺して、東は頷いた。
「頼みます。それと、出来れば口を閉じているように、と」
「はい」
 ちらりと笑って、立花は先行する二人に追いつき、追い抜かして前に出る。それから視線をそらして、東は山内へと向き直った。
「山内君は殿を頼めますか?」
 本来の彼の使い方はこうじゃない、そう判ってはいたが、この場合仕方ない。
「判りました、隊長」
 その辺りの事情は先刻承知だろう。山内は屈託のない笑顔で頷いた。多少はそれにほっとさせられ、東は五十嵐と倉田に視線を向ける。
「二人は私の前へ。一列縦隊、追い付きます」
「はっ」
「了解」
 僅かに開いてしまった前との距離を、小走りで詰める。先頭で警戒しつつ、立花は彼女たちと小声で会話を交わしていた。治まっていたはずの頭痛が、また振り返してくる。人のいない幻獣の支配地域……そこで人間の声がすれば、幻獣どもも異変に気付くだろう。そして生憎と、人間の声はよく通るのだ。隠密行動の意味が、二人とも全く判っていない。
「……」
 だが一方で、彼女たちの恐怖も判りはするのだ。平静な会話を続けているのは、そうすることで自分達の恐怖がなんとか押さえ付けられるからだろう。
 禁じて逆にパニックになられても困る、そう自分を騙して、東は苦虫をかみつぶしたような顔になった。この甘さは、いつか命取りになるかもしれない。


 夢野の固い決意を間近で感じながら、八十島は自らも強く銃を握りしめていた。こんな風にしていてはいざというときに大変なことになる、そうは感じてはいたのだが、だからといって力を抜くことは出来なかった。抜いたら最後、震える手が銃を取り落としてしまいかねない。
 夢野は引っ切りなしに自分や立花に話しかけてくる。それは恐らく、自分が手から力を抜けないのと同じ理由だ。彼女もまた、怖いのだ。
 何でこんなところにいるんだろう、追い払っても追い払っても、その思いが心を蝕む。それを突き詰めたら終わりだ、そう言い聞かせても止められない。
 そっと、傍らの青白い顔を見る。夢野は……なにを支えにしているのだろう。折れそうな、折れたがっている心を、どうやって保っているのだろう。ほんの一時触れ合っただけの、小さな男の子。その為に命を賭けている……そう言葉にするのはなんてたやすいことなのか。それが本当はどういう事なのか、今は否応なしに受け止めている。
 絶え間なく、そして無限に続く地獄の責め苦。いつ訪れるか判らない破局の時まで、限りなく引き延ばされていく恐怖の時間。全貌が見えない砂時計のように、確実に減っていっていることが感じ取れるだけの。
 ウォードレスの中が汗で冷たく濡れているのが、気持ち悪い。命を賭けるなんて、口に出す言葉のなんて軽いことか。
 けれどそれでも、夢野が今ここにいるのは、まさにそういうことなのだ。増大していく恐怖に耐えてこの場に留まり、更に先へと進もうとしている。
 ならば自分は。自分はどうなのか。遊びではないと思っていた。覚悟は出来ていると思っていた。だけど。
「どうした、顔色悪いよ?」
 突然話しかけられて、八十島は反射的に背筋を伸ばした。そちらへ視線を向けると、倉田が顔を覗き込むようにして笑いかけてきていた。
「あ、いえ……」
「無理しない。そうだねぇ、こういう時は歌でも歌えるといいんだけどな。今回はあんまり目立っちゃ駄目だから」
「歌、ですか」
「そう、歌。歌は良いよぉ。憂鬱の雲を追い払って光を降らせてくれる」
 惑いすくむ心を言い当てるような詞に、八十島はひそかに息を飲む。まるでそれが歌の代わりだとでもいうように、倉田は輝くような笑みを八十島に向けた。
 この人は……改めて相手の顔をまじまじと見つめ、八十島は胸に新たな思いを広げる。この人は、今自分が抱いているような闇を抜けてきたのだろうか。いや、彼女だけではない、彼らもまた、明けるとも判らない闇をくぐり抜けてきたのだろうか。或いは今も、走っているのだろうか。星の光を頼るように、自分を支えるなにかを燈して。今の自分にも、その道を歩くことは出来るだろうか。
 朧げな答えを彼女が手に入れるその前に。
 山内がふと険しい顔を辺りに向けた。少し遅れて、立花が足を止める。慌ただしい手の合図に、東もしかめた顔を道の先へ向けた。
「……敵距離二百、ゴブリン20、キメラ3です」
 素早く最前部まで走り出た山内が、双眼鏡を僅かばかり目に当てて報告する。ほぼ同時にゆらゆらと揺れていたキメラの尾先が、一斉にこちらを向いた。まるでそれに従うように、ばらばらにざわめいていたゴブリンたちが、真っ赤な一つ目で彼らを振り返る。
「あれが……母さんを焼き払った光……!」
 押し殺したきしり声に振り向く余裕もなく、八十島はほとんど魅せられたようにキメラの尾先の輝きを見つめた。
「走れ!」
 横合いからの怒声がなければ、本当に身を焼かれるまで動けなかっただろう。その声に突き飛ばされるように、八十島は走り出していた。

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