ちひろ@わかばのリワマヒ日記帳

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zoom RSS 5/3ゲームログSS【リワマヒの一番長(くてもの悲し)い日】前編

<<   作成日時 : 2008/05/19 20:29   >>

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ちひろ'S, Turn
AM6:00

「習慣って怖いよね〜」
 誰にともなくそう口にしながら、ちひろは歯ブラシに歯磨き粉をたっぷりとつけた。今日は圧しも押されぬ連休最後の日。通常ならば、陸軍医大に勤める医者である彼女には、連休などというものはない。たまたま偶然が棚ぼたして、貴重な連休が手に入ったのだ。ならば盛大に寝過ごしてやろうと思っていたのだが、結果はご覧のとおりである。
「起きちゃったものは仕方ないよねー」
 またしても誰にともないつぶやきを漏らし、あーっと開けた口に歯ブラシを突っ込む。かしゅかしゅと歯を磨きながら、ちひろはいつも通り部屋に戻ってテレビを付けた。片手は腰、片手でせわしなく歯ブラシを動かしながら、音を絞ったニュース画面を眺める。
 どこかで大きな事故があって患者が運び込まれたりしたら、救急治療のチームではない彼女にもすぐに病院から連絡が来る。それは分かっていながらそれでもニュースを見てしまうのは、これも習慣だろう。
 とはいえ、とりあえず我が国は穏やかな春にたゆたって……。
『繰り返し、臨時速報をお知らせします。本日未明、陸軍医大近くの公園で原因不明の爆発があり』
「……は?」
 フリーズ。
 今年の流行色のベストをさりげなく纏ったキャスターは、真顔のままこちらを見て口を開く。
『ただ今現場と中継が繋がっています。リポーターの荒井さん?』
 ぱ、と画面が切り替わって、映し出されたのはあまりに見覚えのある場所だった。
「…………えええええっ!?」
 がばっとつかみ掛かるようにちひろはテレビの前にがぶりよった。
「ど、どうして……っ」
 限界ぎりぎりまで見開かれた目が、画面の情景にくぎづけになる。深刻な表情のリポーターが話す言葉は、すべて右から左へ流れていってしまう。
 陸軍医大はリワマヒの中でも最高水準の医療を誇る病院で、その門戸はすべての国民と旅行者に広く開かれている。故に、そこに勤める医者は常に忙しさと争っている。所属していることが一つの奇跡と自他共に認めるちひろでさえ、もちろん例外ではない。
 だからこそ、職務の間の僅かな時間であっても、リフレッシュすることはとても重要だ。そしてちひろがリフレッシュの場として親しんでいたのが、件の公園だった。
『以上、現場から荒井がお伝えしました』
 物々しい空気が発散されていた現場の映像が、スタジオへと切り替わる。
『幸い、未明に起こった爆発だったので、被害者はいない模様ですが、何が爆発したのかは、現在分かっておりません』
 とりあえず怪我人はいないと判って、ちひろはほーっと息を吐き出した。へたへたとその場に座り込んで、画面に飛んだ歯磨きの泡を慌てて拭く。
 キッチンに戻って口を濯ぐ間も、テレビのニュースは低音で状況を繰り返している。犯人は依然不明、爆発物の種類は現在調査中……それに耳を傾けているうちに、次第にむらむらと怒りが込み上げてきた。
(人の心のオアシスを破壊するなんて……!)
 犯人、許すまじ。ぐわっと膨れ上がった怒りのやり場を求めて、ちひろはまたテレビの前に戻った。他のいくつかのニュースを挟んで、話題はまた爆発事件に戻り、再び現場が映し出される。
「あ」
 忙しく立ち働いている警官の中に、見覚えのある人物がいた。ぶっちゃければ自分の患者だ。その姿を見つけた瞬間、ぴんとくる。
(そうか……そうだ、行ったら話が聞けるかも)
 陸軍医大に勤める自分だ。なにかあったときのために……そんな名目で医療道具を持っていけば、邪険に追い払われることはあるまい。
(待ってろ、犯人……半殺し、はまずいから、麻酔無しで唇を縫い合わせてやる!)
 ごうごうと物騒に燃え上がりつつ、ちひろは手早く支度を済ませて自分の部屋を飛び出した。


銀'S Turn
AM7:15

「すみませーん、朝定のB、ライス多めにお願いします!」
 カウンターの向こうに身を乗り出すように声をかけてから、銀はいつもの席に座ってくはぁと大きくあくびをした。流石に眠い。
 ここのところずっと、学兵仲間と遊び歩いているのだ。共和国のあちこちに戦争の気配が色濃くたちこめてきているものの、今はまだリワマヒは伸びやかな春を謳歌できている。
 一度家に帰って仮眠をとってからおこたの間に顔を出そう、そう決めてカウンターにひじをつく。待つほどもなく目の前に出されたトレイを手元に引き寄せ、銀はフォークを手に取りながら壁際の高い位置に鎮座しているテレビに目を向けた。
「……あれ?」
 ポテトサラダを掬おうとしたフォークが止まる。テレビに写った映像の中に、見覚えのある人物の姿を見つけたのだ。
「ん〜、なんでちひろさんがテレビに?」
 入国したての頃、歓迎会を兼ねたお花見で知り合った女医が、深刻そうな顔をしたリポーターの後ろに写っている。あらためてがつがつと定食を平らげながら、銀は切れ切れに聞こえてくるニュースに耳をそばだてた。
「……爆発事故、か」
 事故といっても、深夜の公園に自然爆発するようなものがあるはずがない。明らかに人為的なものだ。コンソメスープを飲みながら、どうしようか考える。
 とりあえず、寝に帰るのはやめだ。室賀藩王は不在の筈だが、おこたの間にいけば摂政の東がいるだろう。情報も集まっているはずだ。直行するのも一つの手だが。
「公園に行ってみるか」
 現場がどうなっているか、自分の目で見てみるのもいいかもしれない。そこでちひろと合流しておこたの間に行くことも出来るだろう。
 なんにせよ、藩王様がいない時を狙ったように起きたのだ。警戒するに越したことはない。そこまで考えて、銀は苦いものでも噛んだように顔をしかめた。どうやらこれで、自分の休みは終了のようだ。犯人を捕まえたらただではすまさない……そう心に誓って、銀は立ち上がった。


東's Turn
AM 7:30

 王宮内にある合議の間、全ての政策がそこで決定される国家の中枢、通称「おこたの間」に、東はいつも通り大量の書類と共に入室した。丸いコタツの定位置について、まずは電気ポットからお茶を入れ、技族長であるシコウ秘蔵のおせんべいを取り出す。
「良い天気ですねぇ……」
 ちゅんちゅんと囀る鳥の声に耳を傾けつつ、熱いお茶を口にして一息つく。アルコールブラザーズの一員として勇名を馳せる東ではあったが、さすがにこんなすがすがしい朝っぱらから酒を飲もうとは考えなかった。
 昨夜から、室賀藩王は不在となっている。戦闘機「蒼天・晴型」の寄贈を受け、競合国である芥辺境藩国への表敬訪問を行っているのだ。そう言うとなにやら大仰だが、辺境偵察局時代からの友人である荒川真介藩王のところへ遊びに行ったと言い換えることも可能だ。要するに、そういうことである。そして今回は、東が留守番を仰せつかったということだ。
 国の仕事以外にも、共和国法官長代理としての職務もある。誰もいないことだし、まぁ真面目に片づけるかと東は山積みになった書類に目をやった。自分で持ってきたものの他に、部屋に入る直前に行政官から渡されたものもある。そちらを先に仕分けてしまおうと思いつつ、ふと思いついて東はテレビのスイッチを入れた。
『……より、捜索活動が続けられています。なお、前日に付近で不審な人物を目撃したとの情報も多数寄せられており……』
 深刻な声が流れ出した画面には、すがすがしい朝にしては随分と物々しい映像が映し出されている。あまり得るところのないキャスターの声を聞き流しながら現場の様子をじっと見つめ、東は昨夜遅くに報告を受けたとおりに人員の手配がなされているのを確認して少し肩の力を抜いた。
「ふむ……誰の仕業でしょうかね」
 思い当たる節はいろいろとある。アイドレスプレイヤーの敵対組織セプテントリオンの、昨年からの計画を完膚無きまで叩きつぶしたのは自分たちであるし、それ以外にもまたいろいろときな臭い匂いが漂いだしてもいる。とはいえ、ここで情報もないまま推測を重ねていても仕方ない。軍も警察も優秀だ。追って情報が入るだろう、そう結論づけて東はこの事件のことを頭の片隅に追いやった。テレビを消そうとリモコンに伸ばした手がふと止まる。
「ちひろさん? 何をやってるんだ、あんなところで」
 画面にちらりと映った意外な人物に、思わず唖然とした声を漏らしてしまう。確かに彼女は陸軍医大に勤める医者だから、怪我人がいるなら事故現場にいても不思議はないかもしれない。だが、見た感じどうやら治療をしに来ている様子でもない。確かに現場の公園は、彼女の勤め先からも家からもそう遠くない場所にありはするが ……。
「なにを怒っているんだか……」
 笑顔で警官と話をしてはいるが、おこたの間にもよく来る関係で多少人となりも判ってきている東の目には、どうも相当怒っているように見える。なにがどうしてかは知らないが、妙な騒ぎに巻き込まれなければいいのだけれども。とはいえ、あの様子じゃ自分から突っ込んでいきそうだ。
 やれやれとため息をついてから、東はきっぱりとこの騒ぎを意識の片隅に追いやった。情報を求めるのであれば、最終的にここに来るだろう。その時話すのでも、遅くはない……多分。


皆見's Turn 
AM7:45

 すれ違う人がみんな一様に振り返って見送ってしまうほど、その青年の外見は異相だった。もっとも、異相なのはその頭頂部だけで、更に言うなら金髪さらさらヘア揃いの南国人の中にいるからこその異相であるのだが。
 端的に言ってしまえば、その青年の頭は見事なまでのアフロヘアなのだ。南国人特有の金髪が縮毛状態でくるくると頭を覆ってこんもりとした円を描いており、日の光を反射してミラーボールのごとくきらきらと輝いている。
 誰も彼もが目を見張って一瞬足を止めてしまうのも無理ないことだろう。その様、まさに豪華絢爛であった。
 とはいえその青年、そうして人から注目されることを楽しんでいるようだった。軽やかな足取りに、口元には笑み。それも、他愛ない悪戯が成功した直後の子供のような、邪気のない笑みだった。
 青年の名は皆見一二三。数日前から旅行者としてこの国に滞在し、つい先ほど国民としての登録をすませてきたばかりの新国民だった。
 
 皆見が、何故リングゲートをくぐるなりなり国民登録をしなかったのかは、一言で言えば「なんとなく」だった。元々この国に世話になることは決めていたのだから、それは本当にただの気まぐれの部類だろう。強いて言えば、本格的にやっかいになる前に気楽な身分で国内を見てみたい、そんなところかもしれない。
 いずれにしても、その僅かなインターバルが結果としてあんな大事件に発展してしまうのだから、それを偶然といおうと運命といおうとさじ加減の恐ろしいことには変わらない。ともかく、すがすがしいその朝に新しくリワマヒ国民になった皆見は、昨日まで一介の旅人であり、もっと言うなら「変な人物」として多数のリワマヒ国民の記憶に刻まれていた。
 その皆見、国民登録後もすぐに宮城に顔を出すことはせず、前日までと同じようにふらりふらりと橋の街を歩いていた。5月のこの国は、洪水の水もあらかた引き、代わりのように植物が一斉に成長を始める時期だ。暑さもまだ、肌をじりじり焦がすというところまではいかず、実に過ごしやすい。ふらふらと散策を楽しむ には、もってこいの季節だった。
 その陽気に誘われるように、彼はのんびりと北へ向かって歩いている。ここ数日は都市部をあらかた見て回っていたので、今日は農村部の方にでも行ってみようかと考えていたのだ。宮城には夕方くらいまでに顔を出せばいいだろうと、そんな風に思っていた。
「……ん?」
 そんなのんびりモードだった皆見が、この国にはあまり似つかわしくない騒然とした空気を感じ取ってしまったのは、一体どのような力の法則が働いたためなのだろう。
 物見高い人たちが遠巻きに囲んでいるのは、丁度昨日ふらりと訪れて昼寝を決め込んだ公園だった。さほど大きくはないがよく整備されていて、あちこちにある花壇や木々から馥郁たる花の香りが漂い、気持ちよく午睡できた場所だ。
 いったいなにが起こっているのか俄然興味が湧いてきて、皆見はふらっとそちらの方へ足を向けた。ざわめいている人々の後ろから、強引に体を割り込ませる。
「ん、前ちょっちどいてくんないかい。前がみえないんだよね、どいてくれるよね」
 そんな軽い口調と共に、ぐいぐいと体を前へと進めていく。抗議をしようとしてか振り返った人々は、皆見の外観に恐れをなしたかのように次々と彼に場所を譲った。良好になった視界に写ったのは、封鎖テープによって出入りできないようにされた公園の入口と、その内側で忙しく動き回っている警官達の姿だった。奥の地面が大きなシャベルで根こそぎ掘り起こされまくったように荒れ果てているのが見え、ふ、と鼻先を湿気た火薬の香りがかすめていく。
「ありゃあ……」
 どうやら、爆発事故が起きたらしい。そういえば真夜中に一時期外が騒がしい感じだったなぁ……そんなことをのんびりと思い出していた皆見の視界に、ほんの僅か違和感を感じさせるものが入ってきた。白衣を着て眼鏡を掛けた、若い女。どうやら医者のようだ。周りにいるのが制服を着た警官ばかりなだけに、小柄とはいえその姿は酷く目立った。
 怪我人の手当でもしていたんだろうか……そんな風に思いつつつい注目してしまった視線の先、その医者はふと顔を上げてこちらを見た。視線がぶつかり合う。緩やかにその口元に浮かび上がったにこやかな笑みに、なぜだか背筋がざわついた。
 声は聞こえない。けれど、その医者はまっすぐに皆見を指さすと、傍らの警官に何事かを告げた。ばばばっと、辺りの警官がいっせいに彼を振り向く。
「え?」
 シャキーンといっせいに警棒が振りかざされる。こっちに向かって殺到してくる警官の群れに、よく判らないが本能が閃いた。曰く、とっとと逃げろ……!
「そこの怪しい奴、止まれ!」
 背後から追いかけてくる沢山の靴音と怒鳴り声。
「うちは怪しくなんかないなんかない……っ」
 だからあれは自分の事ではない、断じて。
「そこのきらきらアフロ! とまらんか!」
 どんな呼び方だと振り返って突っ込んでやりたかったが、太鼓の乱打のような靴音を聞くだけで勝手に足がスピードを上げていってしまう。
「逃げるとは怪しい奴め! やっぱりお前の仕業だな!」
 闇雲に走りながら、皆見は投げ付けられた台詞を考える。仕業、仕業とは一体なんだろう。よく判らないがともかく。
「コワモテおっさん集団に追っかけられたら、誰でも逃げるわ!」
 叫んで逃げる。とにかく走る。なりふり構っていられない。それが朝の団欒中のリビングでも、ケンカ中の子供部屋でもキャッキャウフフ中の夫婦のキッチンでも、委細構わずけたぐり倒して駆け抜ける。キラリと光るアフロを残像にして、「ちょいとごめんよぉぉっ」をドップラー効果にして、それはまさにスピードスターとでも名付けたくなる快走っぷりだった。
 それにしても。
「ぬー、何故追いかけられるんだー。というか、ここどこだー」
 気がつけば、辺りはめっきり密林がかっていた。有り体にいって、迷った。さらに悪いことには、その状況に突っ込んでくれる人さえいない。
 どこともしれないジャングルで、皆見は腕を組んでうなだれた。一秒、二秒。
「まぁいい、とりあえず逃げ切れたからな。後は脱出するだけだ」
 わはは、と笑いまでつけてポジティブ極まりない結論を口にし、皆見はどこともしれない密林の中を適当に歩き出した。


ちひろ'S Tune
AM7:50

 ズドドドド、と土埃を蹴立てて追う者たちと追われる者の姿が遠ざかっていく。
「先生はここでお待ち下さい。なぁに、直ぐに捕まえて戻ってきますよ」
 残った警官に笑いかけられて、ちひろは言葉を濁すようにしつつ頷いた。実は未だに、先生と呼ばれるのに慣れない。
「ちひろさん」
 名前で呼び掛けられて、少しだけほっとした気分で振り返る。封鎖テープを乗り越えて、銀が彼女の方へと歩いてくるのが見えた。
「銀さん、おはようございます」
「おはようございます。で、どうしたんです? こんなところで」
 不思議そうに問い掛けられて、朝方の怒りがまた蘇ってくる。きっと鋭い視線を向けられて、銀は驚いたように瞬きした。
「酷いんです、銀さん!」
「へ? 私が?」
「違いますよ、犯人が! こんなときにボケないで下さいっ」
 理不尽、の三文字が銀の脳裏に点灯したかは定かではないが、ともかく二人は情報交換することが出来た。
「なるほどね……それでこれからどうします? 私はおこたの間に行く予定ですが」
「私は……ここで犯人を待とうかと。誰か怪我して戻ってくるかもしれないし」
「そうですか。んじゃ、東さんの方には私から話を」
「なにぃ!? 見失った!?」
 しておきます、の言葉は、背後の警官が上げた奇声に掻き消された。はっと振り返ったちひろは、険しい表情の警官に眉を潜め、おもむろにつかつかとそちらへ歩み寄った。精一杯身を伸び上がらせて、警官が耳に押し当てたレシーバーから漏れる声を聞き取ろうとする。流れてくる情報に、眉間に刻まれたシワはますます深くなった。
「……どうしました?」
 躊躇いがちに尋ねてくる銀を、ちひろは再びきっと睨み付けた。
「アフロの人、イリヤ樹海に逃げ込んじゃったらしいです!」
「そ、そうですか」
 掴みかからんばかりの勢いに、やや引き気味に銀は応じる。それに全く気がつかずにちひろはぐぐっと拳を握った。
「もー! 逃げるなんて怪しい! だけどなんの装備も無しで密林に入ったら危ないでしょうがー!」
「まぁ、そうですね」
 国民以外の人間が下手に足を踏み入れれば、遭難は必至な密林がリワマヒには幾つもある。イリヤ樹海もその一つだ。ちひろが危惧するのも無理はないが。
「銀さん、東さんに伝えて下さい! それで、捜索してもらって!」
「はぁ、それは判りましたけど」
「行きますよ、トッポさん!」
 戸惑ったような銀に背を向け、ちひろは警官の襟首を伸び上がって掴むと、そのままずかずかと歩き出す。頭の中はアフロの不思議な青年をいかに助けだし、なおかつ口を縫ってやるかの作戦立案で既にいっぱいになっていた。


銀'S Tune
AM8:30

「……と、いうわけなんですよ」
 おこたに足を突っ込んで、銀はそう話を締め括るとポットからお茶を汲んだ。
「なるほど、金髪アフロの人が逃走中ですか。今日は新人歓迎の大宴会の予定でいましたが困りましたねぇ」
「え、新規入国があったんですか?」
 嬉しい知らせに、問い返す声が自然と弾む。リワマヒはけして弱体国家ではないが、構成人数が少ないことも事実だった。新人さんは24時間年中無休で大歓迎の現状、その知らせはいやでも胸躍った。
「ええ、今朝入国監査局から連絡があったばっかりで。皆見さんって人なんですけどね。詳細はここに」
「拝見します」
 差し出された人物資料に目を落とす。読み下していく視線が、外見的特徴のところでぴたりと停止した。
「あの〜……東さん?」
 おそるおそる、名前を呼んでみる。実にいい笑顔で、東は肘をついた手を組み合わせた。
「ええ、実に困りましたね」
 いやいやいや、そうじゃないだろ……その突っ込みをかろうじて飲み込む。このおこたの間で東に突っ込みを入れるなどという、勇者といっても過言でないような行動を取れるほど、銀はヒロイックな性格をしてはいなかった。ちなみにこの場合、勇者と書いてバカと読む。
 ごほっと一つ咳払いして、銀は仕切り直しの視線を東に向けた。
「宴会の準備と容疑者……もとい新人さんの追跡、どっちにしましょう?」
「そうですね……ところで、入ってくるときに何か貰ってませんでしたか?」
 聞き返されて、そういえばと思い出す。おこたの間の前で、行政官の一人から封書を貰っていた。なんでも、近所の子供が頼まれたといって持ってきたのだそうだ。
「これです。東さんか蒼燐さん宛ってことですけど」
 差し出すと、東は僅かに眉をひそめてからためらいなく封を切った。中の紙を一読する、その目がふっと細められる。険しい、とまではいかないにしても、真顔になっていることが気にかかった。
「どうか、したんですか?」
 そっと問いかけると、東はちらりと銀に視線を向けてから、投げやりな仕草でその紙を手渡してきた。
「読んでみて下さい」
「はぁ……拝見します」
 東の態度にいぶかしがりつつ、銀は受け取った手紙に視線を落とし……愕然とした。
「これ……脅迫状じゃないですか!?」
 そこにあったのは、爆破予告だった。陸軍医大近くの公園を爆破したものと同威力の爆弾が、今我々の手元にはある。王宮を破壊されたくなくば、我々の要求を呑め云々……そんな文言に、紙を持つ手に思わず力がこもる。
「まぁ……そのようですね」
「そのようって……!?」
 今ひとつ鈍い東の反応に、思わずきつい視線を向けてしまう。ふうっと一つ溜息をついて、東は銀の手の紙を指さした。
「まだ続きがあります。どうぞ読んでみて下さい」
 そう言われれば、引き下がるしかない。やり場のない感情を深呼吸でなんとか静め、銀はもう一度脅迫状に視線を落とす。
「なになに……今からいう人物を捜し出して、指定された時間に指定された場所まで連れてこい? どんな大層な奴だよそいつは……えーと、名前は明らかには出来ないが、外見風貌は、ピンクの、ナース服の……髭を生やした男ぉぉぉ!? そんな怪しいやついるか!」
 発作的にぐしゃぐしゃに丸めて、銀はその手紙を床に叩きつけた。沸々とこみ上げてくる怒りは、その程度では到底収まりそうにはなかったが。
「やれやれ、一応これも大事な証拠物件なんですから」
 拾い上げた紙を伸ばして、東はそれを封筒に戻す。コタツの上に置かれたそれを再び奪い取って、銀は怒りに燃える目を東に向けた。
「東さん、その件俺に任せてくれませんか? とっ捕まえて、死ぬほど後悔させてやりますから」
 こんな愉快犯みたいな奴に貴重な休日を邪魔されたかと思うと、腹が立つなんて言葉じゃ到底収まらない。
「要求はともかく、爆弾は恐らく本当ですよ」
「判ってます。だからって、んな馬鹿馬鹿しい要求になんか、応える気にもならない」
 ぽむ、と肩に手が乗った。いつの間にかすぐ脇にいた東が、穏やかな笑みを向けて銀を見ていた。
「な、なんですか」
「いえ、この国の危機に雄々しく立ち向かおうとする貴方に感銘を受けまして」
「は、はぁ」
 いったいなにを言おうとしているのかが判らないまま、曖昧に頷く。笑顔を絶やさぬまま、東はうんうんとそれに頷き返した。
「そんな銀さんに、ささやかながら役に立ちそうな物を贈らせてもらおうと、そう思ってるんですよ。使ってもらえますか?」
「本当ですか、有り難うございます!」
 当然武器は携帯していくつもりだったが、東が用意してくれるなら心強い。
「で、それはどこに」
「今用意させます」
 にいっこりと向けられた、なんの邪気もない笑顔。何故だか目の前のそれに妙な寒気を覚え、銀はひそかに首を傾げた。
(……味方、だよな?)


皆見'S Turn
AM10:30

 その頃皆見は。
「事件だな、うんこれは事件だ。ここで犯人を捜して捕まえてうはうはの展開お約束だな(一人妄想中)!!」
 まだ迷っていた。

 -以下次号-

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