ちひろ@わかばのリワマヒ日記帳

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zoom RSS 夏の思い出ネタSS -1-

<<   作成日時 : 2008/08/13 22:26   >>

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 身長より高いヒマワリに囲まれて見上げる空は、燃え盛る太陽に漂白されたかのように、色を失った光に満ちていた。
 それで命を削るを良しとするかのような、蝉時雨。森からは離れているはずなのに、耳を聾する激しさはやまない。
 少年はヒマワリの畝の間に立って、ただひたすらに色のない空を見上げていた。額や腕や背中を、たらたらと汗が伝い落ちていく。
 このまま、永遠に続くかと思うような夏だった。南国であるリワマヒでは、夏は殊更に長い。だからついそう感じてしまうんだろう。それは判っていた。けれどそれでも、セミ達の歌声を一身に浴びて立っていると、時間が止まっているんじゃないかなんて錯覚に陥る。七歳の夏に閉じ込められるかのようなその永遠は、少年を苛立たせた。
「リオくーん!」
 奇跡のように蝉の泣き声が静まった瞬間、彼の名を呼ぶ声が耳に届いた。はっと振り返ると、小高くなったヒマワリ畑の外れに、斉藤奈津子の姿が見えた。夏用の薄手の制服に麦藁帽子を被り、それとお揃いの麦藁帽子を持った手を大きく振っている。
「なっこちゃーん!」
 見えるはずないと思いながらも、リオは両手をメガホンのようにして彼女の名を呼び、大きく手を振った。彼女のほっそりした顔が、こちらの姿を探すように動く。
「今から行きますから、動いちゃダメですよー!」
 見えたのだろうか、ヒマワリに頭まで埋もれているはずの、自分の姿が。いや、それよりも今から行くという言葉にひどい不安を覚える。
「んにゃあっ!」
 はたして、畝の向こうから聞こえてきたのは叫び声だった。とっさに声のした方に小走りに向かいながら、蝉時雨の合間をぬって声が聞こえてこないか、耳をすます。
「なっこちゃーん! どこにいるんだよー!?」
 声が聞こえないことにますます不安になって、歩む速度を上げながら名前を呼ぶ。もし彼女がケガでもしていたら、そう思うとどきどきした。応急処置のやり方は学校の授業で習ったけれど、自分では彼女を運んであげられない。
「なっこちゃああぁんっ!」
 立ち止まってもう一度、もっと大きな声で名前を呼ぶ。その頭に、不意にぱさりとなにかが被さった。
「はい」
 はっと振り返ると、奈津子の笑顔が自分を見下ろしていた。
「帽子を被らずにいたら、日射病になりますよ?」
「なっこちゃん……」
 足音も草を掻き分ける音もなしにいきなり真後ろに現れられて、少し驚く。だがその事よりも。
 無意識に唾を飲んで、リオは恐る恐る口を開いた。
「なっこちゃん、怪我は?」
「怪我、ですか?」
 キョトンとした顔の後で、奈津子はぱあっと破顔した。
「心配かけてごめんなさい。でも大丈夫です。私、頑丈なんですよ」
 なにが嬉しいのかにこにこと笑う奈津子から視線をそらし、リオは帽子のつばを掴んで引き下ろした。
「この帽子って」
「ああ、リオくんのお母さんから頼まれたんです。それと私も、お母さんから帽子頂いちゃいました。いいお母さんです」
 似合いますか? そんな事を言って、奈津子は帽子のつばを気取った感じに指で押さえた。リオの母親に使い走りさせられたことなんて、気に留めた様子もない。
 それから目を反らして、リオは帽子を深く被り直す。母親が言う事なんて簡単に想像がつく。恥ずかしさと誰にともつかない怒りとがぐるぐる回る、今の顔を見られたくはなかった。
「似合ってる……それと、ありがと」
「どういたしまして。ふふっ、嬉しいです」
 奈津子は気付いた様子もない。朗らかな声にほっとする。
「暑いですね、今日も」
 帽子を押さえるようにして、奈津子が空を仰ぐ。さっきまでの自分と似た仕種に、消えたはずのわけもない苛立ちが胸を掠める気がして、リオはとっさに彼女の手を掴んでいた。
「戻るよ、なっこちゃん」
「え? あ、はい。戻りましょう」
 驚くさまをすぐに笑顔で打ち消して、奈津子はリオの手を握り返した。


 河口へと向かう連絡船の中、その人影に気がついたのはやはり奈津子だった。どうしてかやや緊張気味の声で、リオの名を呼ぶ。
「ね、あの子どうしたんでしょう」
 潜めた声で問いかけられて、奈津子の指の指し示す方向へと視線を向け、リオは目を細めた。
 河川敷の草むらにぽつんと座っているのは、リオと同じ歳くらいの薄汚れた服装の子供だった。周囲に親らしき人間の姿は見えず、膝を抱え込むようにしてうずくまる姿はひどく頼りなげだった。
 深く考えることもしなかった。リオは連絡船を操る船長に素早く近寄って、その服の裾を掴んだ。
「ねぇ、止まって!」
「止まれって、おい坊主」
「いいから止まって! 駄目ならゆっくり進むだけでもいいから!」
 身をひこうとする船長の服の裾を掴んで離さず、リオはねだるような言葉を繰り返す。二人きりの乗客へと交互に視線を送り、船長は肩をすくめて船の速度を緩めた。
「ありがとう!」
 笑顔でそう叫び、リオは踵を返すとそのまま船縁からリワマヒ川へと飛び込んだ。泳ぎは同年代の子供たちの中でもうまい方だ。流れる水をぬうようにして、あっという間に岸辺へとたどり着く。
 ずぶぬれの状態で近づいていっても、その子は驚いた様子もみせなかった。というよりは、端から意識に留まっていないのかもしれない。ちらりと向けられた視線は無表情なまま、すぐにそらされてしまう。
 そんな、感情が死滅したような反応は、ここ数ヶ月で何度か見ていた。着の身着のままでたどり着いた他国からの避難者たちの一部が、最初の頃良く見せていた反応だ。
「なぁ、ここでなにしてるんだ? サカサコタツの広場にはいってないのか?」
 返事はなかった。そんな反応も予想はしていた。リオはびしょぬれのまま少年の傍らに膝をついた。
「行く場所が判らないなら、連れてってやるよ。一緒に行こう。ここにいてもお腹が空くばっかりだろ?」
 手を伸ばす。少年は凍りついたように動かないままその手を見つめ、やがてゆっくりと視線をそらした。リオが側に辿り着くまでそうしていたように、川へと視線を向け直す。変わらない無表情に、けれどどこか切実なものを認めて、リオは少年の視線を追った。
 川の向こう岸との丁度真ん中の辺りに、半ば水没した木が見える。よく目をこらすと、水中に没している部分の境目に、なにかが引っかかっているのが見えた。少年の視線は、真っ直ぐにその何かに向けられているようだった。
「あの引っかかってるのが、気になるのか?」
 なんだろうと思いつつ、尋ねてみる。再びリオを振り返った瞳は、先ほどよりもくっきりとした意思を感じさせた。こくりと一つ、少年は頷く。
「判った。ならあれも拾ってやるから、一緒に来いよ」
 そう伝えてもう一度手を差し出すと、少年は再びこくりと頷いた。やせ細り土に汚れた手が、そっと伸ばされる。それをしっかりとつかみ取って、リオは立ち上がった。引っ張った身体は、ひどく軽くて頼りない。泳がせるのは無理だろう……そう思いながら首を巡らせると、自分たちのいる場所から少し手前の岸辺近くに連絡船 が横付けされているのが目に入った。おそらく奈津子が、船長に頼んで岸に着けてくれたのだろう。
 少年の手をしっかりと握ったまま、リオは彼の足下に注意を払いつつ船まで彼を連れて行った。腰の辺りまで水に入って彼の身体を船縁まで持ち上げようとすると、すぐに船長の手が伸びてきた。
「おいおい、軽すぎるぞ坊主」
 少年の身体を軽々と水の中から引っこ抜きつつ、船長は半ば呆れたように声を上げる。少年が席に収まるのを待って、リオは船へと戻った。
 席に収まりはしたものの、少年はやはりじっと動かずに水に浸かった灌木を見つめている。薄汚れた横顔に表情はないけれど、片時も離れることのない視線だけで、それが彼にとっていかに大切なものなのか苦しいほどに伝わってきた。
「じゃ、出すぞ」
 そう言いながら、船長はゆっくりと船を岸から遠ざけていく。その腕に飛びついて、リオは船長の気を引くように伸ばした指を振り回した。
「船長、あっち! あの木見えるだろ? あそこまで行ってよ」
「はぁ? お前な、いくら客が少ないからってそうそう寄り道」
「お願いだよ、近くまででいいから!」
 呆れかえったような声に対抗するように、腕を掴んだ手に力を込める。やれやれといわんばかりのため息をついて、船長はリオの手を振り払った。
「判ったから手を離せ、操船出来ないだろう」
「あ……ごめん」
 もっともな指摘に思わず後ずさりして、リオはぺこりと頭を下げる。からりとした笑い声を立てて、船長は木の方へと舳先を向けてくれた。
「一体どうしたんですか?」
 答えを返さない少年に辛抱強く話しかけていた奈津子が、そんなことを問うてくる。当然の疑問だろう、そう思いながら、リオは指先を水没した灌木の影に向けた。
「あそこになにかあるの、判る?」
 そう問いかけると、奈津子は曖昧な笑顔を口元から消してリオの指先を追い、目を細めた。
「……なにかの、像みたいですね。木彫りの」
 その答えに、少しだけ驚く。リオにはそこまで正確に、そのものを捉えることは出来ていない。
「なっこちゃん、目がいいなぁ」
 思わず感嘆の声を上げると、奈津子は顔を赤らめて笑った。
「あれ、この子にとって大事なものみたいなんだ。取ってあげるって約束したんだよ」
「なるほど、そういうことですか」
 納得の頷きを彼女が返す間にも、船はゆっくりと木に近づいていく。ようやく、リオの目にもそれがなにかの木像だということが判別できた。
「拾ってくるから、待ってて」
 誰かに、というわけでもなくそう告げて、リオは再び川に飛び込む。冷たい流れに逆らわず、真っ直ぐに灌木へと辿り着いて、引っかかっていた木像を取り上げる。掌サイズの木彫りの像は磨き込まれた艶を放つ一方で摩耗していて、なんの姿をかたどったものなのかよく判らなかった。あの少年がどうしてこの像に執着するのか も、やはり判らない。
 うっかり手をすべらせて川底に落とさないよう気をつけながら、リオは近くを通過していこうとしている船へと泳ぎ寄った。船縁では、奈津子と少年が待ちかまえている。
「はい、これ」
 何はともあれ渡してしまおうと、リオは少年に向かってその像を差し出した。だが、少年はそれを受け取ろうとはしなかった。どころか、僅かに視線を俯かせて後ずさってしまう。完全に予想外の反応に、リオは奈津子と目を見合わせた。
「どうしたの? 欲しがってたんじゃなかったんですか?」
 数歩後ずさった少年は、奈津子の問いかけにこくりと頷く。それなのに。
「なら……」
 促す言葉には、首を振るのだ。まるっきり不可解な態度に、リオは再び奈津子と視線を交わす。互いの目の中に疑問符を認めて、奈津子はしかしすぐににこりと少年に笑いかけた。
「判りました。リオくんに持っていて貰いたいんですね?」
 ほんの僅かな逡巡の気配をみせてから、少年はこくりとまた頷く。そんなやりとりを見守っていたらしい船長が、また大仰なため息をついて近寄ってきた。
「ほら、掴まれ」
 差し出された手を、木像を持っていない方の手で掴む。軽々と引き上げられて、リオは再び連絡船の木の床に足を着いた。
 改めて、手の中の像を見下ろす。人の形をしていることまでは判るが、それ以上のことはよく判らない。あちこちに泥や葉っぱがこびりついていて、洗って綺麗にしてやりたい気持ちになったが、うっかり流される危険があるここでは、どうしようもない。
 視線を感じて顔を上げれば、再び座席に収まった少年がじっとこちらを見ていた。真摯な眼差しを受け止めて、どうすればいいだろうかと考える。明らかに難民の子らしい少年は、まずはサカサコタツ遺構の避難所に連れて行くべきだろう。もしかして親とはぐれたりしていたとしたら、そこで見つかる可能性は高い。
 けれど、よく判らないがこの像は少年にとって大事なもので、しかもそれを自分に持っていて欲しいというのなら……言うままにこの像を持ったままさよならしていいものかどうか。
(……あ、そうか)
 それほど悩むこともなく、答えは出た。落とさなくてすむようにベルトにその像をしっかりと挟み込んで、リオは少年の前に立ち、かがみ込んで視線を合わせた。
「なぁお前さ、うちに来いよ」
 口にしてみると、それはなかなかの提案のような気がした。自分を見上げてくる大きな目に、リオは安心させるように笑いかける。
「それなら、お前もこの像と離れないですむだろ? 大丈夫だよ、うちは一人くらい増えたってどうって事ないから。それに、母さんの作るご飯はおいしいぞ?」
 一体どの言葉が決め手になったのかはよく判らない。けれど、少年は多少ぎこちなくではあるものの、こくりと頷いた。汚れた顔は相変わらずの無表情だが、ほんの僅かに、瞳が揺れたように見えた。
「よし、決まりだな!」
 パンと両手を打ち合わせて、リオは先ほど川に飛び込んだときに置き去りにしていた麦わら帽子を取り上げ、少年の頭に被せてやった。ぱちぱちと瞬いた瞳が、じーっと見つめてくるのにまた笑いかける。
「被ってな、頭が灼けると大変だから」
 末っ子の自分はいつもこうして貰う立場だったから、こうして誰かにしてあげられるのはなんだかちょっと嬉しかった。


 リオの思った通り、母親であるメイは最初に驚き、次に満面の笑みを浮かべ、それから激怒した。二人揃って追い立てられるように庭へと向かわされ、大きなたらいに張られた水と渡された石けん、それからヘチマで身体の隅々までを綺麗にするよう言いつけられる。
「まったく、あんなところでぼーっとしてるくらいなら、どうしてもっと早くうちに来なかったんだい?」
 相当無理のあることをさも当たり前のように言いながら、メイは二人分の服を新しく出してきてくれる。
「いったいいつから、川縁にいたんだい? もう真夏だってのに」
 ぷりぷりと怒りながらの問いかけに、少年はさほど怖がる様子もみせずに首をかしげてから、指を二本立ててみせた。大きく目を見開いてメイはぶるぶると身を震わせ、憤懣やるかたないというように天を仰ぐ。
「2日!? 2日も一人でいたのかい!? まったく……ここに来るまでも大変だっただろうに。いいよ。今からおばさんが、お腹に優しくて元気の出るものをたくさん作ってあげるからね。楽しみにしておいで」
 やはり喋ろうとはしないものの、少年は頷くよりも少しだけ深く頭を下げた。その仕草にふふっと笑い声を漏らし、メイはリオへと向き直る。
「いいかい、耳の後ろや爪の間までちゃんと綺麗にしてくるんだよ。ここに服を置いてくから、着替えたら台所においで」
「判ったよ」
 こういう時の母親に逆らっても無駄なことだと判っているから、リオは素直に頷いた。逆らっても無駄というよりは、こちらの言うことなどてんで聞く耳持たないのだが。メイは満足げな笑みを浮かべて頷くと、立って歩き去ろうとし、ふと足を止めた。
「そうそう、自分の名前、言えるかい?」
 咄嗟にリオは、少年の横顔に視線を注いでしまう。ここに至るまで一言も口をきいていないことを考えると、その質問はかなり無茶な要求だろう、そう、思ったのだが。
 少年は小さく首を傾けると、ゆっくりと口を開いた。その唇から、やはり音は洩れ出さない。しかし確かに、明瞭な意図を表すように、それは動いた。聞こえない音を聞き取ろうとするように気むずかしげな顔で少年を見つめ、メイはどこか厳かな素振りで口を開いた。
「ニア、かい?」
 ふるふると首が横に振られる。難しい顔のまま唇を動かす母親にならって、リオも自分の口を動かしてみる。
「……リア?」
 また首が横に振られる。もう一度動いた唇とうっすら見えた舌先の動きに、リオは改めて唇を動かした。
「もしかして、リワ?」
 こくり、肯定の意を表して少年の頤が動く。リオと顔を見合わせたメイが、改めて顔全体をくしゃりとほころばせた。
「そうかい。うちの国の名前が入ってるなんて、奇遇だねぇ。じゃあリワくん。ようこそリワマヒ国へ。私たちはみんな、あんたを歓迎するよ」
 屈託のない声に、リワはまたさっきのようにやや深く俯いた。上がった顔は相変わらず無表情だったけれども、大きな目に今までよりもくっきりとした優しげな光が宿っている……リオには、そんな風に感じられた。


 野菜も肉もご飯も全て軟らかく食べやすくしてあるのは、二日間の空腹を抱えたリワへの配慮なんだろう。そんなことを思いながらリオは十分に煮込まれたラムを口にする。歯で噛むまでもなく口の中でとろけるような肉を、おいしいと味わってくれているだろうか……そんな思いで視線を流すと、リワは黙々と目の前の料理を平らげている最中だった。
 綺麗さっぱりと洗われた髪と肌は自分たちと同じ色合いで、彼もまた南国人なのだと雄弁に告げている。南国人国家で難民を出さざるを得なくなった国はどこだっただろう……そんなことをちらりと考え、リオは思いついてテーブルの上に木像を置いた。これもまた、先ほどの水浴びで綺麗に汚れを洗い流している。
「なんだい、それは」
 好ましげな眼差しを黙々と食べ続けるリワに向けていたメイは、リオのアクションが目に入ったのか彼の方に向き直り、ふと眉をひそめた。
「リワの宝物だよ。俺が預かることになってるんだけど、落としたりなくしたりしたくないんだ。母さん、入れておける丁度いい袋とかないかなぁ?」
 そんな呼びかけに、しかしメイはどこか気むずかしげな顔でじっと木像を見つめたまま、反応を示さなかった。なにかを一心に考えている様子の母親に、どう声をかけていいか判らないまま名を呼ぶ。
「母さん?」
「ん? ああ、すまないね。いや……その像になんか見覚えがある気がして」
「これに?」
 なにが刻まれているのかよく判らない、摩耗した木像だ。改めてそれを取り上げてしげしげと眺めるが、当然の事ながらリオには見覚えなど全くなかった。自然と母親に似たしかめ顔になってから、リオは不意に単純な解決法を思いつく。
「リワ、これってなにか知ってる?」
 よく冷えたシャイを飲んでいるリワに向き直って、眼前に木像をかざす。ぱちぱちと瞬いた大きな目がふっと俯いた。目を閉じる形で曖昧に与えられたのは、知っている、という意味だろうか。ただ、その様子からして彼がそのことに触れて欲しくないと思っていることは、どうやら確かなようだった。
 大事なものであることは確かなのに、自分の手には決して持とうとしないで、その上それに触れて欲しくもない様子で。不可思議な態度に、なんと言っていいかますます判らなくなる。
「入れておける袋だったね。ちょっと待ってな、見てきてやるから」
 微妙な空気を察したように、母親は快活な口調に戻って立ち上がる。横を通るときに、わやわやとリワの髪を撫でて、そうして部屋を出て行く。そんな母親の様子を見習って、リオもそのことを気にしないことにしようと心に決める。いろいろあって、彼は今ここにいるのだから。生きてここにいて、ご飯を食べている。大事なのはそれだけで、それ以上の詮索なんて、きっと必要ない。

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