ちひろ@わかばのリワマヒ日記帳

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zoom RSS ミーア@愛鳴之藩国様からのご依頼のSS

<<   作成日時 : 2009/12/15 09:55   >>

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 バルク・O・クレーエ、黒にして黒曜。彼は、誉れある二つの名を持つ偉大な魔法使いである。
 かつて彼は同胞である黒オーマたちと起居を共にし、敵に対しては刃をもって立ち向かう日々を送っていた。そしてまた、己の知的好奇心の赴くままに世界を探求する求道者でもあった。
 彼にとって世界はそれ自体が一個の巨大な叡智であり、その神秘を探求するのに時間はどれほどあっても足りないくらいだった。その一方で、黒の血が為す己の存在意義を賭けた闘争への欲求も常に身の内に在った。
 己自身がけっして結びつき合う事のない矛盾に引き裂かれた存在であるということを、彼は片時も忘れた事はなかったし、その認識は時折トゲのように心の弱い部分を突いて血を流させずにはいなかった。  
 その彼の長年の認識に、ほんの僅か別の角度から光を当ててみせた女性がいる。治癒の力を持ってはいるものの特別に秀でた能力を持った人物ではなく、従って勿論オーマではない。だが、彼女の示した光が照らし出した異なる世界の有り様は、バルクの知る世界と少しずつ解け合い混ざり合って、緩やかにだが確実に彼を変貌させつつあった。
 その変化を彼にもたらした女性は、今も微笑みを絶やすことなく彼の元にいる。


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 その茶葉は、とても優しい香りがした。国内を視察していた時に、国の民から貰ったものだ。格別優れた薬効があるわけではないようだったが、立ち上る香りになんだか安らいだ気持ちになる。それだけでも、十二分に価値はある。
 つつつ、と背後に寄ってきた気配に、香りの為というわけではなく、口元が和らいだ。
「ありがとうございます、バルク様」
 肩越しに振り返るとすぐ近くにミーアの笑顔があって、バルクはごく自然にその口元に唇を寄せていた。このふるまいが自然なことだということも、彼女に教わったことだった。
「すぐ、できます」
「はい」
 ちゅ、と小さな音が触れあった場所から聞こえて、ふんわりと胸に熱が灯る心地がした。彼女は悪戯っぽく笑って、少し離れたソファに腰を下ろす。片時も離れない視線は温かく柔らかい。じんわりとした熱を感じながら、バルクはカップに二人分のお茶を注ぎ入れた。きらきらと眼を輝かせて待つミーアに、それを手渡す。
 隣に腰を下ろすと、ミーアはすぐにぴったりと身を寄せてきた。はにかんだような笑みを浮かべてから、カップを押し戴くようにしてちょっと頭を下げる。そんな仕草を微笑ましく見つめ、バルクは彼女の反応を見守った。
「いただきます。……おいしい」
 深く味わうような僅かの間を置いて、ミーアはゆっくりと息を吐きながらしみじみと呟いた。
「もらったものです」
 予想通りの、そしてそうであったらいいと思っていた通りの反応に、バルクは微笑んだ。そっと手を伸ばして、彼女の髪を撫でる。
「そうでしたか、くだすった方に感謝ですね」
 耳をへにゃりと寝かせたミーアは、その柔らかな接触に甘く蕩けた笑みを浮かべる。自分に身を預けきった様に、バルクはまた眼を細めた。唇は優しげな微笑を湛えたまま、意図のように眼を細めた彼女を見つめる。
 ゆっくりと味わって花の香りのするお茶を飲み終えたミーアは、そっとカップをコーヒーテーブルに置いてから、改めてというようにバルクにもたれかかってきた。預けられた体を抱き留めて、バルクは自分のカップをテーブルへと移動させ、改めて彼女の体を抱きしめ直す。
「愛しています」
 さらさらとした髪をすくように撫でて可愛らしい耳元に唇を寄せ、囁くように告げる。頬にぱあっと赤みの差したミーアは、嬉しそうな微笑みを浮かべてバルクの首に腕を回してバルクの尖った耳に唇を滑らせた。
「はい わたしもです。愛しています」
 はむ、と耳朶を咥えられた感触に、くすぐったさが背筋を伝い下りてバルクは忍び笑いを漏らしてしまう。熱の籠もった柔らかな頬の曲線を指で辿ると、ミーアはくすくすと同じトーンでさえずるように笑った。星の瞬きにも似た光を浮かべた瞳が、彼を見上げる。
「いつも本当にありがとうございます、バルク様」
 素早いキスのあとで柔らかな声が紡いだ言葉に、同じキスを仕返してからバルクは首を傾げた。
「私がなにか、しましたか?」
「えへへ 嬉しいんです。だからありがとうなんです。」
 彼女の言葉は、多くの謎を宿しているように、バルクには感じられることがある。
 魔法使いである彼にとって、言葉は真理を切り開くものに他ならない。形なき謎に、形を与えるものでもあり、真理に宿る力を解放するためのものでもある。
 だが、彼女の紡ぐ言葉は、そうした働きを為していないように思える。それでいて、遙かに重大ななにかを内に秘めているようにも感じられるのだ。
 以前は、そういった謎があれば追求せずにはいられなかった。けれど最近の彼は、そういうものがそのまま存在していてもいいのではないかと、思うようにもなっていた。勿論、読み解かれるべき謎は無数に存在し、それに対する気概も衰えたつもりはない。だが、彼女が紡ぐ言葉に対しては、それをことさら意識することなく、ただ感じたままに対してもいいのではないかと思えるのだ。鳥のさえずりを聞いて、その意味を求めるのではなくただ美しいと感じるように。
「なるほど。では私も、感謝しないといけないですね」
 きらきらと輝く瞳を覗き込むようにして、バルクは微笑みかける。安らいだような微笑みを返すミーアは、ふと首に回していた手を外し、バルクの耳を指でそっとなぞった。ふにふにと耳朶をつつかれて、バルクは僅かに眉を潜めた。さわさわと、あるかなきかの不確かな感覚が全身を忍び渡っていく。
「不思議な感じがしますね」
「どんな感じですか? くすぐったい?」
 腕の中から顔を覗き込まれて、バルクは眉をほどき笑みを浮かべた。
「くすぐったいような。そうでないような。心地よい感じはします」
「それならよかった」
 くすくすとまた小さく笑い声を上げたミーアが、ふっと身を起こした。バルクに抱き着いたまま、耳の形を確かめるように唇で触れてくる。くすぐったさがつのって、バルクは微かに肩を震わせた。悪戯っぽく笑う彼女を見下ろし、ふとこみ上げてきた衝動に身を任せる。
 ぴくんと震えた細い肩を抱き直し、なおもその耳をはんでいると、抱いた体がかあっと熱くなったのが判った。
「・・・」
 顔を覗き込むと、ミーアは真っ赤な顔をしてぱくぱくと口を動かしていた。愛らしい様に、口元がほころぶ。胸に手を当ててほうっと息をついたミーアが、赤い顔のまま笑ってまた抱き着いてきた。
「されるとびっくりしますね」
 小柄な体をマントを広げるようにして深く腕の中に抱きしめ、それからバルクはミーアの顔を覗き込む。
「バルク様、大好きです。愛していますよ」
 まっすぐに視線を受けとめたミーアの囁きに、胸の奥の柔らかな部分を撫でられたような気持ちになる。彼女の温もり、香り、柔らかな重さ、そういった全てを感じ取ると、自然と心が広がっていくような気がした。
「こうするのも楽しいものです……愛しています」
 髪をすくように撫でながら囁くと、ミーアは眼を細めるようにして笑顔になった。
「はい 嬉しいです」
 前髪をとき分け、額に口づける。お返しのようにキスを仕返してきたミーアが、ふとすり寄る仕草をやめ、バルクの肩に手を置いて顔を覗き込んできた。こちらの反応を確かめるような視線に、バルクは首を傾げる。
「あのね、バルク様、もし、もしよかったなんですが」
「はい」
「子供・・・つくりませんか?」
 紅に染まった頬をそのままに、ミーアは真剣な顔でそんな事を言ってくる。なんとも愛らしいお願いに、また口元がほころんだ。多くの女性が、愛する相手との間に子供を欲しがる。その子供を称して『愛の結晶』と呼ぶところを見ると、それは愛情の有り様の一つとも言える。
 ほんの少し、以前からパロに「一代限り」と言われていたことが頭をよぎった。だが、それはそれで構わないだろう。自分の子供は、けれど一個の人格だ。彼、もしくは彼女が、望む生を生きればいい。自分がそうしているように。
「・・・・かまいませんが」
 微笑みを絶やさぬまま告げると、ミーアは心から嬉しそうな笑みを浮かべた。
「ありがとうございます」
 可愛らしいことだ、そんなことを思いつつ、バルクは微笑むミーアと見つめ合う。ぱちぱちと瞬いたミーアは、なぜかまたももじもじとなにか言いたそうな素振りを見せ始めた。
「?」
 促す意味で首を傾げてみせると、ミーアはやや戸惑ったような笑みを浮かべつつ首を傾げ返してきた。
「あ・・・今からでも?」
「今からでも」
 確認するような言葉に、微笑みつつ頷く。なおも探るような眼差しを投げかけてくるミーアは、その視線のまま小さな声で更に問いかけてきた。
「ところでバルク様、どうしたら子供って出来るんでしょう・・・」
 なるほど、と納得した。詰まるところ彼女は、思いはあるものの方法を知らないらしい。であれば、その恐る恐るといった様子も道理だろう。いっそういとおしさを覚えつつ、バルクは安心させるように頷いてみせた。
「知識はあります」
 頭の中から、様々な知識と『言葉』を蘇らせ、それを詠唱として唇に乗せる。膝の上に乗ったままのミーアが目を丸くしてこちらを見ている。大丈夫だと示すように笑いかけつつ、この大きな瞳は優先的に子供に受け継がせようと決めた。他にも色々、子供に与えたい彼女の特質はある。それを確かなものにするためには。
「ちょっとまった!」
 突然目の前で手をばたばたと振られて、バルクは詠唱の言葉を途切れさせた。反作用が起こらないようにうまく飲み込んで、何故か慌てた様子のミーアを見返す。いったい、どうしたというのだろう。
「はい?」
 はぁ、と自分を落ち着かせるように息を吐き出して、ミーアは改まった様子で上目使いにバルクを見つめ、更に小さな声で訊ねてきた。
「先に、ご存知のことをお聞きしてもいいでしょうか?」
 なるほど、確かに知らないということは不安だろう。先に彼女の気持ちを安らがせておくことも、重要だ。最優先と言っていい。なるべく彼女にも判るような平坦な言葉を心がけつつ、バルクは自らの持てる知識を説明し始めた。
「遺伝子を魔法で掛け合わせて・・・」
 理解しているのかしていないのか、彼女はいっそう不可思議な、なにかを堪えるような顔でじっとこちらを見つめてくる。かと思えば、説明の途中で、突然強い力で抱き着いてきた。驚いたが、そのまま説明を続けることにする。それにしても何故、彼女は震えているのだろう。顔を肩に埋めてしまっているせいで表情が掴めないのが、少々不安にさせられる。
 ややあって、彼女はおもむろに顔を上げた。真っ赤な顔をして、目尻には涙がにじんでいるほどだが、表情は苦しそうではない。むしろ楽しげで、なんとなくほっとさせられて。
「えーと バルク様、人間はもっと原始的な方法でも子供が作れると思います」
 彼の言葉を遮るような性急さで、ミーアは一息にそんな事を口にする。
「というわけ・・・そうですか?」
「です」
 どこか笑いの気配を貼り付けた厳粛な表情で、ミーアは重々しく頷いてみせた。その言葉の意味を、バルクは改めて考える。言わんとするところは判った。人間も生物の一種であるからには、生殖活動は当然そのメカニズムに組み込まれている。だが、それは彼女の子供を作るという目的に対して、あまりに不確実なやり方だ。
「その場合、確率に左右されると思います」
 ミーアは、やや目尻を下げた笑顔で頷く。だがそれは、納得したという意味ではないようだった。
「そうなんですけど、なんていうか……その行い自体に意味を考えるというか」
「なるほど」
 バルクは微笑んだ。彼女が時折使う、謎を秘めた言葉だ。原始的な方法は彼女にとって、それでもそれなりの意味があるらしい。あるいは、自分が詳細を知らないだけで、なにか特別なことがあるのかもしれない。
「お嫌じゃなかったら、ですけど・・・」
 上目遣いをするように顎を引いて、ミーアはやっぱり恐る恐るというようにバルクの顔を覗き込んでくる。断られると、思っているのかもしれない。とんでもない。彼女が知り、望み、自分が知らないなにかというものに、興味を持たずにいられようか。
「あなたとあって、非効率も楽しいと学びました」
 バルクはそう答えて微笑んだ。これも、嘘ではない。彼女から学んだ、物事の違う側面なのだ。
「それはよかった」
「はい」
 彼女の笑顔を見ると、自然にこちらも笑顔になってしまう。これを、幸せというのだろう、そんな事も、近頃は衒いなく考えるようになった。
 ぎゅ、と抱き着かれる。
「愛してます」
 想いを込めて抱きしめる。
「愛しています。心から」
 ミーアは幸せそうな笑みを浮かべて口づけてきた。
「はい わたしも」
 バルクはうなずいた。唇にキスを返し、彼女の輝く瞳を見つめる。
「方法を、教えてください」
 彼女にとって意味があるという、そのやり方を。
「ええと……なんていったらいいかな」
 ふんわりと顔を赤らめて、ミーアは困ったような顔をした。それでいながら、どこか笑いをこらえているようでもあり、そして、こみ上げてくるなにかをなんとか押さえているようでもあった。きらきらと輝く瞳が、まっすぐにバルクを見つめている。その目を見返して、彼はミーアの次のアクションをただ待った。
「…………もうダメだ……っ」
「?」
 それは本当に小さな囁きで。訳を尋ねようとした瞬間、バルクの視界はぐるりと回った。仰向けに倒れた彼の上にのしかかってきた彼女は、次の瞬間弾けるように笑い出す。
「……どうしました?」
「ご……めんなさい、バルク様……っ」
 彼の上に俯せて、小さな動物のように体を丸め、ミーアはひたすら笑う。笑いの合間に為された謝罪の言葉も、発作のような笑いに千切れて苦しげにかすれている。その背中を静かに静かに撫で、バルクは彼女の笑いの波が静まっていくのをただ待った。
 どれくらいたったのか、ようやく笑い納めたミーアは、それでもまたどこかに笑いの余韻を残したまま、身を起こしてバルクを見下ろしてきた。いとおしさを閉じ込めたように光る瞳がバルクを見下ろし、細い指が乱れた彼の髪をなでつけていく。
「愛してます、バルク様」
 甘い笑みを宿した唇が、愛の言葉を紡ぎ零す。ふと身をかがめ、言葉を追いかけるようにキスを落として、ミーアは時折みせる悪戯っぽい笑みを口元に浮かべた。
「時間は、きっとまだまだありますから。ゆっくり二人で、覚えていきましょう」
 二人で、のところに与えられたアクセントに、バルクは微笑んだ。自分も、彼女に教えられること、教わることはまだまだ多くあるだろう。尽きぬ謎を二人で解いていけるのなら、それがどれほど長い時間になったとしても、楽しい道程であるに違いない。
「ええ、二人で」
 そんな答と共に身を起こし、彼女の腰を引き寄せるように抱きしめる。それは自然で善きことなのだと言葉ではなく教えてくれた彼女に、バルクはこれからも幾千幾万と交わし続けるだろう口づけを贈った。

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