ちひろ@わかばのリワマヒ日記帳

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zoom RSS ミーア@愛鳴之藩国様からのご依頼のSS-2

<<   作成日時 : 2010/04/23 11:13   >>

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 大きなお腹を抱えるようにしてよちよち歩く妻の姿を、バルクは座ったまま見守る。今でも、内心のはらはら具合は最初の頃とさほど変わっていないと思う。この家を訪れる見舞客、とくに女性たちに笑われたり諭されたりしたお陰で、行動には出さないようになっただけで。
 最初の頃、彼女の悪阻がひどかった頃には、それこそベッドに縛り付けるような生活を送らせようとしたのだ。重いものを持たないように、歩かずとも動かずとも全て手元に届くようにと力を行使した。そんな自分の行動に、彼女たちは口を揃えてこういった。出産は、病気ではないんですよ、バルク様、と。
 知識としては、勿論判っているつもりだった。旅の途中の成り行きでとはいえ、出産に立ち会ったこともある。
 だが、実際に子供を腹に宿した女性と、十月十日とも呼び習わされるくらいの長い間生活を共にするのは、本当にこれが初めてだったのだ。その上その女性は自分の愛する人で、お腹にいるのは自分と彼女の血を引いた子供たちなのだ。なにもかも初めての日々は一日一日が新鮮な驚きに満ち、培ってきた知識だけでは支えきれないほどに自分の身も心も振り回された。
 今の自分の状況も、そういう意味では慣れ、ではなく成長、なのかもしれない。勿論本当に彼女が危うい時にはいつでも手を貸せる状態で、ただ見守ることが出来るようになったのは。
 近くに住む女性の話では、もうあと一週間もたたずに生まれてくるだろうということだった。バルクの見立てともほぼ誤差のない結果だ。愛鳴之藩国は現在ベビーラッシュを迎えており、その女性も何軒もの家の様子を見て歩いている。困った時はお互い様、貸せる手は喜んで貸しますよと笑った彼女は、次の家を見に行くと言ってついさっき家を出て行った。
 いつもよりも時間を掛けてティーセットを洗い終えたミーアが、バルクを振り返ってにっこりと笑う。それに微笑み返し、バルクは不意に彼女に兆した変化に、僅かに眼を細めた。情報の流れが、彼女の上で渦を巻くのが見える。
 ふ、と遠い目をしたミーアがそのままふうっと目を閉じる。ぱちりと開いた目には、先ほどまでは見られなかった鮮やかな輝きが宿っていた。
「バルク様ー」
 弾んだ声。彼女だ。途端に胸に満ちた喜びに、一度深く息を吸ってからバルクは再び微笑みかけた。そっと手を差し伸べると、ミーアはやっぱりよちよちとした歩きで彼の元に近寄り、ややしんどそうな動きでソファに腰を下ろした。彼女が落ち着けるようにソファの形を調整したバルクに、ミーアはえへへと笑って自分のお腹のふくらみに手を当てた。
「きっとこの子達が呼んでくれたんですよ、今月もう一度来れるなんて」
 撫でる手つきは愛情に満ちていて、バルクの目にはその柔らかないたわりを心地よく受け止めている二人が見える。片方の子はうとうととし、もう片方の子はこちらの様子に耳を澄ましているようだった。
「そうですね。魔力は、それなりに」
「私のダイス運ではふつうにしててもあたらないですもん」
 嬉しげな笑顔を見せて、ミーアは自分のお腹に視線を落とす。自分と違って彼女には、二人の様子は見えてはいないだろう。それでも体内に抱いていることで、なにがしか繋がりのようなものは感じ取っているのかもしれない。
「ありがとねー お顔も見たかったけど」
 そんな事を言いながらゆっくりゆっくりとお腹を撫でるミーアの様子に、バルクは微笑んだ。
「あと、1週間いらないと思います」
「そうですか。元気に出ておいでねー」
 娘たちに話しかける声も歌うような円やかさを宿している。元々が治癒師であるためか、彼女の物腰にはいつも女性特有の柔らかさと円やかさがあったが、母になろうとしている今、その特性は更に色濃くなってきているようだった。
「女の子とは、思いませんでした」
 彼女の方に膝を向けるようにして座り直し、バルクは和やかな横顔を見つめながら言った。たとえ一代限りと言われていたとしても、自分が未だに黒オーマの一員であることを考えれば、二人とも男だろうと思っていたのだ。
「わたしもびっくりです」
 お腹を撫でる手を止めて、ミーアはバルクに向き直る。ぱちりと大きな目を瞬かせ、そこにはすぐに笑みが溢れ出す。まぁでも、と、やっぱり歌うように彼女は言葉を継ぐ。
「どっちでも、元気で生まれてくれれば。半分はバルク様ですから」
 そう、そして半分はミーアなのだ。そう思えば改めて湧いてくる感慨に、バルクは彼女の胎内で嬉しげな波動を発している娘をしみじみと見つめる。
「そうだバルク様、この子達の仮の名前もうお決めでしたよね」
 お腹を撫でる手の動きを再開しつつ、ミーアは思いついたというような仕草でバルクに向かって首を傾げてくる。一つ頷いて、バルクは考えを披瀝した。
「植物か鳥の名前をつけようと」
 彼の言葉を咀嚼するように一拍おいて、ミーアはにっこりと笑った。
「素敵ですね」
 夢見るような色を浮かべた瞳と向き合って、バルクはにこっと笑った。彼女のことが愛おしく、誇らしく感じるのはこんな時だ。産み出すものとして存在する女性性が、言葉では表せぬ理と分かちがたく結びついていることを、改めて認識する。
「この子たちが生まれる日も生まれてからもあわただしくなると思いますけど、改めてわたしともどもよろしくお願いいたします、バルク様」
 ふと頬を染めて、ミーアははにかむような笑みを浮かべ、バルクに向かって軽く頭を下げてくる。いささか窮屈そうに見える姿勢に咄嗟に手を伸ばして顔を上げさせ、そのまま髪を撫でる。
「はい。名前は、どちらがいいですか? 植物か、鳥か」
 掌の感触が心地いいのか目を閉じたミーアは、バルクの問いかけにふと真顔になる。無意識にかお腹に触れるようにして、視線を床へと投げて。
「そうですね・・・鳥の名前は活発で利発になりそうだし、植物の名前は優しい子に育ちそうですね。ああ、実のなる植物がいいかもしれませんね」
「では、仮の名前はリンゴと、みかんで」
 彼女の考えを汲み入れる形で浮かんできた名を口にする。ぱちぱちと瞬いて、ミーアは嬉しげな笑みに眼を細めた。
「わあ かわいらしい」
「本当の名前は、鳥の名にしましょう」
「ええ」
「高く飛べるように」
 思い浮かんだ秘められたる名は、今は口にしない。それは祝福とともに、彼女たちの耳にそっと囁き入れるべき名だ。それでも、二人の願いがそこに籠められているのだと、見交わした目には確かに柔らかな理解の色が浮かんでいた。
「そうですね きいた?いい名前だね りんご、みかん」
 再びお腹を撫でるミーアはもうすっかり母親の顔で、その掌からこぼれ落ちる愛情の波は言葉とともに確かに彼女たちに届いていた。応えるように放射される歓喜の念に、バルクは眼を細めた。
「嬉しいものですね」
「わはは いま蹴りましたよこの子」
 それが彼女流の愛情と喜びの表現らしい。小さな体を僅かに揺らしてその衝撃を受け止めたミーアは、今にも胎内の二つ子たちを抱きしめたいような素振りを見せた。
「うれしいですね」
「はい」
 喜びを分かち合うように視線が交差する。どちらともなく距離を縮めて寄り添い、唇が触れあう。注意しつつその体に腕を回せば、すぐに応えた腕が背に回される。
「バルク様 愛していますよ。これからもずっとバルク様が一番」
「愛しています」
 告げる愛の言葉が期せずして、同調し合うように互いの唇からこぼれ落ちる。目を見開き、次いで嬉しそうに顔を赤らめたミーアに、バルクは微笑みかけた。
「はい」
 判っていますと思いを込めた頷きに、ミーアはえへへと照れたような笑いを浮かべ、それからまたそっとお腹を撫で始める。
「あなたたちもお父さんと同じくらい愛してますからねー」
 胎内で、応えるように娘たちが笑う。横からそろっと手を伸ばして、バルクはミーアの丸いお腹に触れた。健やかであるようにと祈りを込めて、輪郭をなぞるように掌を動かす。応えて立つさざ波は、感謝と喜びの波だ。
 自分も手を添えつつその様子を嬉しそうに眺めていたミーアは、不意に思い出したというように体をねじって、幾つかの衣類を取りだした。
「そうだいろいろ準備してきたんですよ」
 柔らかな色のグラデーションが映える布地の上に、濃いめと薄いめの桃の花の髪飾りが乗っている。それらの品には、愛情と祈りの念がたっぷりと込められていた。
「はい」
「おしめとか足らなかったら増やしてくださいね」
「大丈夫でしょう。何せこの国は」
 母親らしい心配に、バルクは僅かに口元を緩めて部屋の片隅に視線を向ける。見舞いやら様子見やらで日々訪れる国民たちからの贈り物は、既に急遽作った棚からさえ溢れて積み上がっていた。
「そうですね」
 視線を追うように同じ方向に目をやって、ミーアは嬉しげに目を瞬かせる。
「ありがたいです バルク様のお陰です」
 振り返って向けられた笑みに、バルクは淡く苦笑してみせた。この時期、こういうことになっているのは自分たちの家だけではないのだから。
「いえまあ。この国は、子供だけには恵まれているので」
 子供たちの心と未来を守る盾、を国是に掲げるこの国の国民たちには、生まれ来る子供たちは全て、この国の大事な子供であるという意識が根付いている。国ぐるみ、地域ぐるみで子供たちを守っていこうとする細やかな愛情は隅々に行き渡り、それ故に、子供を産み育てていくために住み着く人たちも多いのだ。
「ええ、ありがたいことです。大変だけどにぎやかで」
 それを思ってか僅かに厳粛な表情を浮かべたミーアは、膝に乗せたままの産着やおしめに視線を落とした。
「髪飾りと、抱っこ用の布は色違いにしてみたので、りんごとみかんが気にいってくれるといいんですが・・・ どっちが好みかなー」
 考え込む横顔が可愛らしくて、バルクは緩やかに抱き寄せたままの手に少しだけ力を込める。
「近いうちに人口は帝國3番目までいくでしょう」
 最近発表された政府公報を思い出して口にすると、布地を撫でていた手が止まる。ぱっと上げた顔には驚きの表情が張り付いていて、ミーアはその顔のままはあっと息をついた。
「それはすごいですね」
「ええ。人口爆発といわれています」
「うーん。食料とか仕事とかもっと整備しないといけませんね。農業になにかてこ入れしたほうがいいのかなあ・・・むむむ」
 先ほどよりも気むずかしげな表情でぶつぶつと呟き出すミーアに、バルクは安心させるように答える。
「FROGという組織が、食糧配給しているので、問題はなくなるでしょう」
 その名にふんわりと表情を明るくして、ミーアはにこっと笑った。
「そうですねありがたいです、あ、楽器の製作のほうはどうでしょう?何かきいておられませんか?」
 詩歌藩国より師を招いて楽器を作るという産業振興策は、国民の熱心な支持により軌道に乗り始めている。先日も見舞いに訪れた人が、お子さんが生まれたらこれを弾いて聞かせてあげて下さいと言って、一本のバンジョーを置いていったばかりだ。
 それを取りだしてみせると、ミーアは目を輝かせて木製のネックに触れた。
「すごい! 頑張っておられるんですねみなさん」
 全体的にはまだまだ素朴な民族楽器の域を出てはいないが、ネックの先端の部分には木彫りの装飾が施され、しっかりと張られた革には愛鳴之藩国の国旗が焼き印で押されている。弦を一つ弾いてその音に耳を澄ませ、ミーアはふと祈るように頭を垂れた。
「うれますように><」
 真剣に過ぎる祈り文句に、バルクは苦笑した。
「まあ、まだ、詩歌の竪琴にはかないませんが」
「そうですねー いいお手本や目標があるのはいいことです」
「はい」
 リムを太腿において構え、思いつくままにかき鳴らしてみる。この素朴な音に似合う曲はなんだろうと、求めるままに手探りで和音を変えていく。速いテンポで、ややスモーキーな音色。かつてどこかで聴いたことのある、遙かな調べ。
「さすがですね」
 ぱちぱちと手を叩いたミーアは、ふんわりと柔らかな視線を自分のお腹に落とした。
「あなたたちのお父さんは何でもできるわね きっとあなたたちも器用よ」
 ふくらみをゆっくりと撫でながら、言い聞かせるような声はどこか誇らしげだ。思わず微笑んで、バルクはバンジョーをそっと脇へと置いた。
「やさしければ、それでいいのですが」
 そう、彼女のように、人を労り、思いやり、慈しむ心を持っていてくれればそれでいい。もっともその点については、それほど心配はしていなかったけれど。彼女の手によって育まれるのであれば、必ずそういう子たちに育つだろうから。
 ミーアは何故か少し心許なげに笑みを翳らせ、確認でもするように自分のお腹を覗き込んだ。
「・・・半分わたしだけどきっと大丈夫・・・よね?」
 そんな事を問いかけながら、そろそろとお腹をまた撫でる。その様子にまた、笑みがこぼれた。そんなバルクを見返してふふっと笑ったミーアが、歌うような口ぶりで胎内に呼びかけた。
「はやくでておいでねー」
 すかし見える胎内では、二人がその声に耳を傾けている。魔法のうねりが緩やかに立ち上がるのを見て取って、バルクはおやおやと首を傾げた。
「そういっていると・・・・本当に生まれますよ? あなたの言葉には子供から魔力が入っている」
 その指摘と、ミーアが眉を潜めるのはほぼ同時だった。ぱちぱちと瞬きしたミーアが、慌てて腕を回して自分のお腹を抱え込む。
「あわわ ちょっとまった。ゆっくりでいいからね、その時が来たらで!」
 母親の切羽詰まった呼びかけが届いたのか、魔法のうねりはほどかれて四散していく。ほうっと溜息をついたミーアは、改めて愛おしげにお腹を擦った。
「よし いいこいいこ。」
 ほっとしつつも同時に誇らしげでもある声に、微笑みを誘われずにはいられない。バルクはそっと手を伸ばし、せり出したお腹にもう一度触れた。彼女の声に二人揃ってうとうとし出した子供たちを確認して、一つ頷く。
「はい」
 空いた手で胸を押さえ、もう一度深く息を吐いたミーアは、嬉しげに目を輝かせてバルクを見返してくる。
「すごいですね、この子達 さすが半分バルク様だわ」
「ここまでたくましいとは思いませんが」
 笑顔とともに紡がれた言葉に、なんともいえずに苦笑する。
「うふふ バロ様の加護がありますもの。元気で優しい子に育ってね」
「そうですね」
 注意を払いながらそっと腕を伸ばして、ミーアの体を抱き寄せる。すぐに体の力を抜いてもたれかかってきたミーアが、同じようにバルクの体に腕を回す。
「うれしい」
 小さな声は一点の曇りもない幸せに満ちていて、胸がじんわりと温かくなる。さらさらの髪をすいて、現れた耳に唇を寄せる。
「愛しています」
 囁いた言葉に、背に回された腕に微かに力がこもるのが判った。
「愛しています」
 囁き返す言葉を追うように、唇が寄せられる。吐息を混ぜ合わす口づけに目を閉じて、バルクは彼女の甘い香りを深く吸い込んだ。

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