ちひろ@わかばのリワマヒ日記帳

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zoom RSS 来須・A・鷹臣@るしにゃん王国様からのご依頼SS

<<   作成日時 : 2011/08/10 06:34   >>

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 夢見がちな事ばかりを言う娘だと思ったのだ、最初は。
 その口から出てくる言葉はどれもこれもが有史以来使い古され、すでに角が削られ丸くなったものばかりで、一つとして自分の胸に刺さることはなかった。
 むしろ印象に残ったのは、そんな言葉たちを吐き出しつつ懸命に自分の目を見上げてくる瞳の方だった。捨て身ともいえる必死さで、体全部でぶつかってこようとする気概を込めたその瞳は、これもやはりかつて幾度となく見返してきたものだ。けれどそれは、その瞳を持つ一人一人の姿がくっきりと見える固有のもので、大量生産される言葉よりはよほど、彼女の本質を認識させるものに他ならなかった。
 その後、精霊のことを教わりたいといって自分の元へ通ってきたときに見せた瞳も、やはりかつての記憶を呼び覚まさせる光を宿していた。あの時も、自分を先輩と呼び慕って、懸命に後をついてこようとする者が何人もいた。その彼らが自分に向けてきた瞳の熱っぽい輝きと、彼女の放つ瞳の輝きはとてもよく似ていたから。懐かしさに胸の奥を優しく撫でられる心地を感じてしまったのは、きっとそのせいだ。
 そうはいっても、彼女の瞳に宿る輝きが表しているのが単純な思慕ではないということは、初めてその視線を受け止めたときから判ってはいた。彼女が頼りすぎている言葉などよりもよほど、眼差しや仕草の方が雄弁だったから。
 おずおずと伸ばされる手やふと伏せられる睫の揺らぎ、そういった端々からいじらしさのようなものを感じ取っているようだ、気づいた己の感情を案外平静に受け止めたのは、もうかなり前のことだった。
 それから随分と、いろいろな事があった。
 そして今、一通の手紙を前に彼は柔らかな苦笑を浮かべていた。見慣れた筆跡でつづられた内容はこれも見慣れた感のあるデートの誘いだったわけだが、彼の苦笑を誘ったのはそこではない。
 文章の総量に対して、「絶対」の言葉が多すぎる。いつにないそれが、そのまま本人の意気込みと繋がっているのだろう。ここまで繰り返すとなれば、それはもう一種の呪文といっていい。
 とはいえ、なぜそうなったのかはわからないではない。今までも幾度か、デートという名目で呼び出された。そのときのいずれもがそれにそぐわない状況下での逢瀬となり、名目にまったくふさわしくない結果に終わった。そうした記憶が積もり積もって、この手紙となったのだろう。
 並べられた言葉の内容よりも如実に、繰り返し紡がれた「絶対」の数に彼女の心は表れている。希求の思いを突き詰めればすなわち。
「『私のことだけ考えて』、か」
 そう呟いて、立ち上ってくる記憶の泡に耳を傾ける。
 ただ相手のことだけを考えること。それは昔、戦友たちとの食事のさなかに聞くともなしに聞いたデートの極意。意気揚々と語っていたのは、誰だっただろう。
 たまにはそれも、悪くない。
 口元に淡く笑みを乗せて、来須は身支度のために立ち上がった。


/*/


 少し先の空間にふわりと現れ出た彼女は、こちらを振り返るなり目を見開いた。僅かに遅れて、健康そうな頬が朱に染め上げられていく。つかの間の静止。そうして、はっと我に返ったように、鷹臣はこちらへと駆け寄ってきた。
「お、お待たせしました・・・!」
 目の前でつんのめるように立ち止まり、息を整えるように胸元を押さえた手が、ふと躊躇いがちに服をぱたぱたと探るような動きを見せる。不安げに揺れた瞳に、来須はほんの僅か口元を和らげた。
「似合っている」
 そう言いながら、彼女の目の前に、手に持っていた赤い薔薇の花束を差し出す。咄嗟というように手を出してそれを受け取ってから、鷹臣はようやく少し緊張のほぐれたようなはにかんだ笑みを浮かべた。
「! え、えへへー…よかったです。」
 埋めた頬が、花弁の色を映したかのように赤い。それから改めてというように彼を見上げ、鷹臣はぱちりと瞬いた目を輝かせた。
「せ、先輩もかっこいいです!いえ、あの、いつもかっこいいんですけど・・・・し、新鮮です!」
 どうやらこの服装のことを言っているらしい。滅多に身にまとうことのない、白のスーツ。確かに、新鮮だろう。
「そうか」
 歩き出すとすぐに、ぱたぱたと軽やかな足音を立てて彼女が追いついてくる。えいっ、という擬音でもつきそうな感じに触れてきた、柔らかな小さい手をそっと握り返す。少しだけ歩く速度を緩めると、頬に差した赤みは消えぬまま、彼女は眼を細めて蕩けたような笑みを浮かべた。
 るしにゃんの深い森を連れ立って歩く。ふっと顔を傾けるようにして自分を見上げてくる鷹臣の目を、来須は見返した。
「えーと、今日はどこへ行くんですか?」
「好きなところに、といいたいが、隣国までいくか」
 来須の提案に、鷹臣は首を傾げたまま口を開く。
「玄霧さんですか?」
「帝国側でもいいが」
 彼女の希望とあらばどちらでも連れて行きはするが、できることなら情勢不安な越前藩国は避けたい。それこそ、彼女が望む『デート』が完遂できなくなることは目に見えている。
「うーん、先輩どっちいきたいですか?」
 考え込むように傾げた首の角度を深くして、鷹臣はそのまままた来須に視線を投げかけてくる。問われれば答は容易い。
「玄霧だな」
「じゃ、玄霧行きましょう」
 打てば響くような返事で、鷹臣はまた幸せそうにえへへと笑い、来須の手をしっかりと握り直した。


/*/


 玄霧藩国はるしにゃんと同じ森国人の国ではあるが、『あった』と語らねばならないほどにその姿は変化していた。文明化が進み、無機質なビルが林立している。
「わー…隣なのにここまで違うかー。」
 案内板を見た限りではまだあちこちにかなりの森が残ってはいるようだが、るしにゃんの抱く深い森に比べてしまえば、それはあっけなく感じるほどに少ない。
「息苦しくはないか?」
 空気までもが随分と違う。環状線の駅を下りた広場の片隅で、来須は呆気にとられたように辺りを見やっている鷹臣の顔色を見ながら訊ねる。振り向いて彼を見上げ、鷹臣は陰りのない笑みを浮かべた。
「森が少ないのはちょっとさびしいけど、大丈夫です。」
 その答えに、自然と手が伸びた。白い帽子の上から、その頭を撫でる。
 笑顔のまま眼を細めて、鷹臣はとろりとした声を出す。今にもごろごろと喉まで鳴らしそうだ。
「先輩に撫でてもらうと、その、気持ちいいです。」
「子供みたいだな」
 淡い笑みを漏らしつつの感想に、ぴくりと頭が揺れた。来須の言葉を咀嚼でもしているように僅かの間黙り込んでから、鷹臣は微妙に悔しげな表情でこちらを上目遣いに見上げてくる。
「じゃあ、先輩は、ぐぬぬぬ・・・わ、私が触るのうれしくないですか!?」
 真っ赤な頬は、怒りなのか照れなのか。帽子のつば先から覗く視線を見下ろして、来須はくすりと笑った。
「そういうのは考えたこともなかったな」
 触るにしろ、触られるにしろ。
 確かめるように、もう一度頭を撫でる。やわらかく、優しく。
「まあまあだな」
 自然と俯いていった鷹臣に、微笑を浮かべたままそう評する。尖った耳の先をぴくりと動かして、鷹臣は妙に決意に燃えた眼差しを来須に向けた。
「………………先輩、ちょっとかがんでください」
「道の真ん中だぞ」
 指摘に一瞬あわあわと狼狽する様子を見せてから、更に顔を赤くした鷹臣はやにわに花束を小脇に挟み込み、両手で来須の腕を取った。
「じゃ、じゃあ、ちょっと物陰行って!かがんでください!」
 ぎゅうっと腕を掴んだまま、鷹臣は先に立って歩き出す。物陰とやらを物色しているのだろう、小刻みに動く頭を見下ろして来須は暖かい笑みを浮かべた。頭を撫でてやりたくなったが、彼女の懸命な様子に手は伸ばさないでおく。
 ビルとビルの間に彼を引っ張り込んだ鷹臣は、肩を怒らせたままくるっと身体を反転させ、来須と向き合う。どうするつもりなのか半ば予測はしていたが、来須はあえてなにも言わずに彼女のアクションを待った。
 まるで果たし合いでも始めるかのような眼差しで、鷹臣は一歩の距離を縮め、首筋に腕を回して抱き着いてきた。怖いものを前にしたときの子供のようにきつく目を閉じて、顔を近づけてくる。
「…………っ!」
 羽毛のような柔らかな感触が、目尻に一瞬だけ、触れた。
「変わってるな」
 笑顔をそのままに端的な感想を述べると、鷹臣は判りやすくショックを受けた表情になって、よろりと後ずさった。頬だけではなく、耳も、首筋も、全てが紅に染まっている。ぴんと耳を立て、長い髪さえ逆立ちそうな勢いで、鷹臣はこぶしを握り締めた。
「ま、まあまあとか言う人には わ、私からちゃんとキスなんかしないんです!私だけ、なんか舞い上がって、ずるいじゃないですかあああ!」
 叫んだ勢いか肩で息をしている鷹臣の真っ赤な顔を見下ろして、来須は覚えた感情をそのまま唇に乗せた。
「なかなか可愛い。これには驚いた」
 ぴたりと動きの止まった鷹臣の体が、一瞬で発火したような熱を帯びたのを感じる。さながら、抱えたバラの花弁の色が乗り移ったように赤い。白い服に映えて美しいなと、ふと思った。
 動きが止まったまま、顔だけがくしゃりとゆがむ。どうしていいか判らないというように握ったこぶしを震わせたまま、鷹臣は泣きそうな上目遣いで来須を見上げた。
「うー…先輩ばっかり余裕でずるいー!私、緊張とか嬉しいのとかドキドキとかで、腰抜けそうなのに!」
 幼子がままならない心を訴えるような、懸命な声だった。ずるいずるいと全身で訴えかけてくるさまに、来須は少し考えてから首を振る。
「俺には、そういう感覚はない」
 事実のみを淡々と告げる。鷹臣は一瞬なにを言われているのか判らないという顔になって、それから一度眉を潜めた。どこか寂しげなそれをすぐに自分から振り切って、再び一歩、来須に近づく。
「………………じゃ、じゃあ、ええと、か、かわいかったら撫でるとかええと、いろいろもっといっぱいしてください!」
 頬の赤みは先ほどよりは少し落ち着いたようだが、それでもまだ元の白さを感じさせない。言葉が進むにつれ蘇ってきた鮮やかさに、来須はひたと見据えてくる瞳を見つめ、手を伸ばす。帽子が落ちないように気遣いつつゆっくりと撫でると、またぴくりと長い耳が震えた。
 理由など、特にない。ただ無性に、こうして撫でてやりたくなる時がある。そのときの暖かな感情を心地よく思う。万物がそうであるように、それで十分。心を言葉で縛ることに、何の意味があるだろう。
 彼女といるからこその、胸に宿る暖かさ。それを心地よく味わいながら何度も頭を撫でていると、ふっとまた、鷹臣の視線が地に落ちた。
「……どうしましょう、先輩。ちっさい子扱いされるの、先輩が笑ってくれるの嬉しいですけど、結構寂しい上に心に突き刺さります…。」
 小さな声がぽたぽた地面に零れ落ちる。彼女が真剣にそう感じているのが伝わってくる。
 その様子をただ見つめ、来須は微笑んだ。
「そういうつもりはないが」
 頭に向かいかけた手を、少し下ろして頬に触れる。まだ赤みの残る頬はすべすべして柔らかく、当然のことながら布地越しの感触よりも命の脈動を感じる。
 びくりと微かに震えて、鷹臣が顔を上げた。訴えかける眼差しにただ微笑みを向け、来須は彼女の頬を、宝物に触るようにそっと、熱を分け与えるように優しく、一度だけ撫でた。

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