ちひろ@わかばのリワマヒ日記帳

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zoom RSS 優羽カヲリ@世界忍者国様からのご依頼のSS

<<   作成日時 : 2012/05/26 09:36  

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 ある程度長く生きてきて、普通の人生ではなかなかあじわうことのできない経験をそれなりに過ごしてきた自分だが、その記憶から照らし合わせてみても、彼女との出会いは数奇な運命、としか言いようのないものだと思う。
 朽ちゆく『廃園』で出会った彼女。世界から隔絶された場所で生きていたせいかどこか浮世離れしたところもあり、それでいてごく普通の可愛らしさもあり、そしてまた父親の後を継いだ管理者としての強い責任感をも持っている。
 最初はわけのわからない相手に遭遇してしまったな、程度の思いだったはずなのに、気がつけばその真の名を引き出そうとしてしまっていた。こちらの問いにまったく意味を理解していない表情で返されて苦笑して、それでよく判った。自分が恋に落ちていることと、その恋の微妙な困難さとを。



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 デート、の指定に従って普段使いではないスーツを着てみたものの、実のところは疑う心を捨てきれないままだ。
 彼女が自分に対して好意を持ってくれているのは身にしみるほど判ってはいたが、デートという言葉から一般的に想像させられるようなあれやこれやとは、彼女自身を結び付けられないのだ。女性に対してこの決め付けは失礼だろうとは思うものの、事実は事実なので仕方ない。そういうところも愛らしいと思っているので、そこに問題はないのだが。
 とはいえ一方で、そうと但し書きをつけられれば期待をしてしまうのも、男の悲しい性なわけで。
 そんな半信半疑な状態のまま待ち合わせ場所に出向いてみれば、少し遅れて彼女が姿を現す。ふらふらとさまよった視線がこちらを捉えた瞬間、頬に鮮やかなくらいに朱が走っていくのが見えた。
「こ、こんにちは」
 こちらに向き直るだけ向き直って、その場でぺこりと頭を下げる。そのしぐさのぎこちなさに笑みを誘われつつ、玄乃丈は片手を上げてみせた。それに応えるように浮かんだ笑顔は、どこか硬い。出会ってからしばらくたつというのに、まだ彼女の中では緊張の方が勝っているのだ。うんまぁ、予想はしていた。
「こっちにはなれたか?」
 とことこと側にやってきたカヲリの顔を見下ろしながら、尋ねる。話題が一般的なものになったせいか、カヲリの表情から僅かに硬さが取れた。
「はい。住みやすいです」
「そりゃよかった」
 頷きながら、なおも表情を注視する。自分と向き合っているが故の顔色や表情の変化を見積もって消し去って、普段の彼女の状態を弾き出す。確かに、無理をしている様子は感じられない。
「気候もいいですし、緑もいっぱいあっていいところです」
 言いながら一つ一つ指を折ってみせるのが可愛らしい。自分の言葉に導かれたのか、彼女はふんわりと穏やかな笑顔になって、玄乃丈を見上げてきた。
「そうか」
 なんとなく頭を撫でたくなった手を、そのまま彼女の手元に差し出す。途端に、ばふんと音でもしそうな勢いでカヲリの顔が赤くなった。待っていると、どうにもぎこちないしぐさでぱっと掌を掴まれる。答え合わせを待つようなおずおずとした上目遣いに、玄乃丈はくすりと笑った。
「上出来だ」
 思っていたよりもずっと優しい、我ながら甘い声だと思う。こんな声を出せるとは自分でも思っていなかった、と、考えると、これは彼女の存在から引き出される自分の特質なのだろう。なかなかにくすぐったいものだと思いつつ、玄乃丈は小さな手を引いてゆっくりと歩き出した。
 このまま特に目的もなく散歩するのものんびりしていていいが、せっかくのデートだ、もう少し彼女が喜ぶようなことをしてやりたい。こちらとしては喜ぶ顔が見られて一石二鳥だ。そんな思いから、問いかけの言葉が口をつく。
 本当は、言われなくとも気づいてやれれば一番いいのだが、まだまだそうするには日常的な時間の積み重ねが足りない。
「好きなことは?」
 その言葉にきょとんとした顔になって、カヲリはけれどすぐにまじめな顔になる。ふらりと泳いだ視線は、見守るうちに嬉しげな色を滲ませて戻ってきた。
「ええと、綺麗な物をみたり、することです」
 彼女らしい答に口元がほぐれる。ならば、と、頭の中で組み立てだしたさまざまなプランは、届いた彼女の声に一旦停止した。
「好きなことはなんですか?」
「俺の?」
 先ほどの彼女の顔を引き写したような、そんな表情になっていたかもしれない。目を細めるようにして、カヲリは微笑んだ。
「はい、玄乃丈さんの、好きなことは、なんですか?」
「女の尻をなでるとか?」
 かちん、音でもしそうな勢いで、固まった彼女の歩みが止まる。予想していたので、不自然に腕を引っ張られるようなことにはならずにすんだ。
「そ、そうだったんですか」
 真っ赤な顔で、今にもだらだらと汗をかきそうな風情で、彼女は目を泳がせる。
「いえ、そうじゃなくて」
 どう考えても頭の中はグルグルだろう。しどろもどろの様子に素直だなとほほえましく思いつつ、玄乃丈は握った手に柔らかく力を込めた。
「冗談だ。いくぞ」
 そのまま手を引いてふたたび歩き出すと、一拍遅れてぱたぱたと足音が続く。
「はい」
 素直だと思った矢先の素直を絵に描いたような返事に、玄乃丈はそっと笑みを深くした。


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 FEGの地平線に、巨大な太陽がゆっくりと沈んでいく。膝のあたりまで生い茂った草原が、夕日を受けながらいっせいに風になびくさまは、まるで光の海のようだった。
「わぁ…」
「ここの夕日は、共和国1らしいぞ」
「夕日…」
 ぽつりと呟きを落としたことにすら、本人は気づいていないのかもしれない。深く息を吸い込みまた吐き出す、その動きにあわせて僅かに震える頬にオレンジが照り映えている。
「きれい…」
 何度目かの深呼吸の後ふたたびそんな言葉をこぼし、カヲリは夕映えに負けない輝きを宿した瞳で玄乃丈を振り返った。
「全部光って見えます…」
 思いをそのまま形にしたような素朴なコメントに微笑んで、玄乃丈は辺りを見回す。本来こうした場所に存在しているはずの、馥郁とした気配は残念ながら感じられない。まぁ、仕方もないことだと思うが。
「動物がいないのが残念だがな」
 彼女に習うように素直にそう口にすると、彼女は驚きをあらわに目を見開いた。
「いないんですか?」
「緑は復活しても、動物まではな」
「動物が、もどってくるまで、まだ時間がかかるでしょうか?」
 彼女から視線を外して夕日に輝いて揺らめく草原を見回していた耳に、生真面目な声が忍び入ってくる。廃園でも聞いた、なにかの責任を負っていると自覚する者のみが口に出来る凛とした響きが、そこには感じられた。
「何か出きることあるかな…」
 感じた印象をそのままなぞる言葉に、なんとなく苦笑する。判っていたことだが、やはりこの時間は冠した内容にはなりそうにない。
「まあ、アフリカに似せて動植物を放すかもしれん」
「そしたらまた、元通りになる?」
 玄乃丈の感慨に当然のことながら気づいた様子もなく、カヲリは上目遣いにじっと彼を見上げてくる。見返すうちにふと伏せられた睫が、自省の色を匂わせて震えた。
「いなくなった動物たちが、帰ってくるわけじゃ、ないですけど…」
「ま、そうだな」
 彼女のみが責任を感じることでもないと思うが。さらりと流して、玄乃丈はカヲリを振り返る。
「で、ライオンやチーターがくる前に、歩くか?」
「っ……はい」
 さらりと口にした猛獣の名に驚いたのかびくっと身を震わせ、カヲリは歩き出した玄乃丈の後を追いかけてくる。小走りに追いついてきたところで歩幅を緩め、ちらりと隣に視線を送れば、彼女はふらりと視線を揺らがせた。もじもじとした様子でちらりとこちらに視線を返す、その頬があでやかなのは夕日のせいだけではないようだ。
「ええと、ありがとうございます」
 微妙な緊張を孕んだ空気に負けたのか、唐突に彼女はそんなことを言う。どこかぎこちない響きはすぐに、眇められた眼差しに溶けるように柔らかくなった。
「綺麗です。とても」
 淡く憧憬を滲ませた声音は、やはり素朴な言葉を紡ぎ落とす。その様子にふと微笑をこぼして、玄乃丈はふと身をかがめ、彼女の耳元に唇を近づけた。
「お前もな」
 先ほどよりも更に激しく身を震わせ、カヲリが足を止める。向かい合うように立ち止まると、彼女は真っ赤になった顔を隠すようにうつむいてしまった。体の前で握り締められた手がにぎにぎと面映そうに動いたと見た瞬間、彼女はがばっと頭を下げた。
「あ、ありがとうございます」
「・・・・・」
 まさか最敬礼で返されるとは思わなかった。
 確かにそういうところを、可愛らしいと心から思うのだけど。
「あ、えと、どうしました?」
 そろそろと上がった視線が戸惑ったように揺れるのに苦笑を返し、玄乃丈はあごで示すように視線をカヲリの後方に流した。
「いや。ほら、都が見える」
 彼の視線を追ったカヲリの目が、大きく見開かれた。零れ落ちそうなその揺らめきの中に、金色の都が映っている。
「…大きい」
 夕日に照り映えたFEGの都は、人造の建築物ながら不思議と草原の風景に溶け込んでいる。わぁ、と感嘆の声を上げたカヲリは、動悸を抑えるように胸元に手を当て、すっと目を細めた。
「人が作った物も、きれいですね」
「そうだな」
 美は、それを受け止めるものの心に映るものだ。どちらも同じように美しいと感じるのなら、それはそれだけ彼女の心が豊かな証拠だろう。吹き過ぎる風にさらわれないよう帽子に手を当て、玄乃丈はだいぶ深い色に染まってきた東の空を見上げる。さえぎるもののない視界に広がる、壮大なグラデーション。
「廃園には、こういう時間の変化はなかったろうからな」
 あの閉ざされた場所には。
「あーまあ、だからってわけじゃないが」
 気持ちが反映されたのか、妙に述懐めいた口調になってしまった。それが気になって振り返れば、そこにはふんわりと優しげな笑顔があった。
「はい。こういうのは、見たことなかったです」
 目が合って、カヲリが先ほどよりはずっとゆったりとしたしぐさで頭を下げる。
「ありがとうございます」
 しみじみと言われてしまうと、それはそれでなんともくすぐったい。そんなこちらの心境には気づいた様子なく、カヲリは改まった様子で辺りを見回す。細められた目で、静かな吐息を解いて。
「世界は、綺麗なものが、たくさんあるんですね」
 横顔からは、いつもの幼さがなりを潜めている。たまにこんな風に、彼女は不意に大人びる。女性というのは複雑で繊細に出来ているなと感じるのは、こんなときだ。
「貴方の姿を見たときも、綺麗だと思いました」
 ふと振り返ったカヲリは、その大人びた微笑みのまま、歌うように囁いた。
「綺麗な、白い狼」
「……」
 これで照れてしまうとは、自分もまだまだかもしれない。とはいえ、駆け引きならば上々だが、こんな衒いのない澄んだ眼差しには、やはり負ける。
 ごまかすように頭をかいてから、玄乃丈はふと浮かんだ思い付きを口にした。
「草原を走るか?そのオオカミの背に乗って」
 思いもかけない提案だったのだろう。カヲリは見開いた目をぱちぱちと瞬いてから、さあっと頬を赤らめた。
「で、でも、乗ったら重く…」
 うろうろとさまよいかけた視線を、一歩前に出て顔を覗き込むことで封じる。こんなところでばかり、素直さを落っことしたような答を口にしなくてもいいのだ。促すように首を傾げてみせると、ふっと真っ赤な顔をうつむかせた彼女は、か細い声で囁いた。
「走ってみたいです…」
 引き出した答に満足しつつ、玄乃丈は目を閉じる。意識はそのままに感覚が揺らぐ、もうよく馴染んだ感覚。その感覚の命じるままに、不自然な姿勢を捨てる。前足がしっかりと捉えたやや柔らかい地の感触。
 目を開けて振り返ると、胸元に手を当てたカヲリがふうっと大きく息を吐き出したところだった。
「・・・・」
 きらきらと目を輝かせ、彼女はゆっくりと彼の傍らに跪いた。細い腕が上がり、首元に抱き着かれる。
「こうしてみたかったんです。ずっと」
 吐息に混ざるような囁きが毛並みをくすぐる。彼が苦しくないようにと気遣っているのか、柔らかな拘束は僅かな息苦しさもなかった。もっとも彼女程度の力では、こちらを傷つけるようなことはそもそも無理だが。
「夢みたい。うれしいです」
 目を細めた表情が本当に嬉しげだったから、ふと悪戯心が働いた。長い舌でぺろりと頬を舐めると、カヲリはまたぱっと顔を赤らめてから、頬に手を当ててふんわりと微笑んだ。
「ふふ、ありがとうございます」
 そのまままた首筋に頬を埋めそうな仕草に、玄乃丈は背中を示すように首を巡らせる。それだけで伝わったらしく、カヲリは恥じらうように顔を赤くして頷いた。
「あ、そうでした。乗るんでしたよね、ほんとに大丈夫ですか?」
 彼女にそんな意図は毛ほどもないだろうが、バカにして貰っては困る。もう一度仕草で促すと、カヲリは決意を固めたような表情で彼の背中に触れてきた。おっかなびっくりといった様子でそろそろと背中に横座りする。その手がしっかりと首筋の毛を掴んでいるのを確認して、玄乃丈は立ち上がった。
 最初はゆっくりと、すぐにペースを上げていく。その脚はひたひたと大地を捉え、力強く蹴り出していく。何者も追いつけない速さで、玄乃丈は果てまで続くように見える草原を駆けた。
「…すごい」
 息を飲む気配。吹きすぎる風の音に負けないようにか、カヲリはやや身を伏せるようにして叫んだ。
「速く走れるっていいですね!」
 それに同意の咆吼をあげて、玄乃丈は更に四肢に力を込める。ぐいぐいと地を蹴るごとに、風が渦を巻いて耳元を吹きすぎていく。
 この姿で走ることは好きだった。速度を上げていくほどに、風が自分の中を等速で吹き抜けていく気がして。自分の中のなにもかもがその風で吹き飛ばされ、透明になっていくような気がして。
 人は皆それぞれの宿命の囚人であり、力を持てば持つほどに世界は狭められていく。そんなことはよく判っていてそれでも、そんな自分の認識すら消え失せていく刹那の時間。何もかも置き去りにして走り抜けていけると、そう思えるのもまた幻想だと判ってはいるけれど。
 草原を貫いて伸びている鉄路に沿って方向転換し、一筋のレールを辿るように更に速度を上げていく。前方にぽつりと見えた黒い点は、すぐに客車の姿となって見る見るうちに目の前に迫ってきた。
「あっ」
 背中に乗せたカヲリが、驚きとも歓声ともつかぬ声を上げる。僅かに速度を落として列車と並ぶと、気づいたらしい乗客達がこちらを指さして口々になにかを言い合い、手を振りだした。背に伝わってくる動きからして、カヲリもそれに応えているようだ。
 暫くはそうやって互いのやりとりを楽しませ、玄乃丈はカーブのタイミングで列車から離れた。相手が点になっていくまで振り続けていたらしい手が、ようやく背中に戻ってくる。
「…環状線、ちゃんと動いてる。よかった」
 ほっとしたような呟きを、鋭い耳はきちんと捉える。徐々に速度を落としつつ、玄乃丈は大きな口を裂くようにして笑った。
「技術者として気になるか?」
「技術者としても、そうですし、なんていうか、皆のために皆で頑張って作った物だから……この世界に住んでる人として、うれしいです」
「そうか」
「仕組みとか考えたり、眺めて、すごいなぁーって思ったりするのも好きですけど」
 その前も、最後に付け加えられた笑い混じりの言葉も、共に彼女らしい。笑いをもらして、玄乃丈は辺りを見回す。
 どれほど速く走っても、さすがに夕日を捉えることは出来ない。辺りはもう、だいぶ宵闇に沈んでいた。そろそろ彼女を家に帰す頃合いだ。
 別れは寂しく名残惜しいものだけれど、それにかまけて彼女を危険な目に遭わせるわけにもいかない。節度は、いつだって必要だ。
(楽しい大人の時間はまた今度、だな)
 それがいつか来ることを疑ってはいないし、その時を迎えることへとの浮き立つような期待感もたっぷりと持っている。我ながら苦笑を禁じ得ない話だとは思うが、恋をするというのはまぁ、そういうことなのだ、きっと。
 こちらの思いにはおそらく露程も気がついていないだろうカヲリを背に乗せたまま、玄乃丈はFEGの駅を目指して再び速度を上げた。

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