ちひろ@わかばのリワマヒ日記帳

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zoom RSS ストーリーによるAマホバリエーションその2 「サクラサクラ」1-1

<<   作成日時 : 2008/01/14 20:07   >>

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はじめに
「この作品はフィクションです。登場する人名地名等は全てセッションログをベースにしたちひろのオリジナルであり、実際の藩国や藩国民・地名などとはいっさい関係ありません」

 〜1〜

 リワマヒ国の新藩国民となった島津裕は、世渡り上手な青年だった。世渡り上手というとなにやらこすっからい印象を覚える人もいるかと思うが、この場合の摘要は、本来の意味である純然たる称賛の言葉である。
 的確な状況判断力、それを支える広範囲の知識と経験、それを得るための旺盛な好奇心と度胸、変化する状況にたえず適応する柔軟性、多くの人と親しい知己となりうる愛嬌、そういったものが渾然一体となって、彼のそういったパーソナリティを作り上げている。
 そしてその多彩な能力を、彼は明確な意志を持って磨き上げている。明確な意志、そういうものがなければ、このアイドレスの世界には足を踏み入れたりはしないだろう。
 その島津には、最近気掛かりな事があった。正確に言うのなら、藩国入りしてからずっと、だが。
 ひょんなことから旅の道連れになって、一緒に藩国入りした女の子。多分歳はそんなに違わないから、女の子呼ばわりは失礼なのだ、本当は。だが、島津の中での彼女のイメージは、どうにも女の子、なのだった。
 出会った時も、コワもてのタクシー運転手に(まぁその人は最終的にいい人だったが)当たった時も、強張った泣きそうな顔をしていたからだ、島津はそう結論づけている。袖擦り合うも他生の縁、という。一度縁を持ってしまった相手にそんな顔をされれば、気にならないわけがない。普段はいつも元気で明るい調子を見せている(おかげで住み込みで入った食堂では、彼女はたいした評判になっている)が、だからといって安心できる話じゃない。
 泣きそうな顔をしても、泣かなかった。必死で笑顔を作って、自分でなんとかしようとしていた。実は今もそうなんじゃないかなんて、疑っているのだ。本当にそうだとしたら、それは悲壮というものだ。
 自分自身そつのない営業スマイルというものを体得していても、やはり本心はこうだ。人間、心から笑える時に思いきり笑うのが一番。そして、女の子は泣くより笑うべきだ。
 そんなわけで、如才なく高級レストランで働き知己を得つつ、島津はツキジの食堂を覗く毎日を送っている。


 ごちゃごちゃした裏町の一角にある小さな公園、そのブランコに腰を下ろして、ちひろは今日何度目かになる溜め息をついた。
 誰が悪いって、自分が悪いのだ。試験要項を勘違いしていたのも、リワマヒ入国にとんでもなく時間が掛かってしまったのも、その間に洗い流したような赤貧になってしまった事も。だからこの結果‥‥‥入学試験を受けられそうにない事も、誰を恨むにもあたらない。あたらないのだが、悲しくて悔しい気持ちはだからといって消えるもんじゃない。
(泣くんじゃない‥‥‥子供じゃないんだ‥‥‥っ)
 じんわりと目許が熱くなってくるのを、何度もまばたきを繰り返して決壊を食い止める。それでもまだ、立ち上がる力は取り戻せない。
「ちひろさん」
 不意に頭上から投げ掛けられた声に、慌てて顔を上げる。白い息を吐きながら、にっと笑って島津が手を上げた。いつの間に目の前に立ったのだろう、全然気がつかなかった。
「どうしました、こんなとこで」
「あ、ええと‥‥‥」
 突然現れた人に、ぐちゃぐちゃだった気持ちが更にかき乱されてうまく言葉が出てこなくなる。キィッと細い金属音が響いて、隣りのブランコに島津が座るのが視界の端に見えた。
「‥‥‥島津さんは、どうしてここに?」
 時間稼ぎのように口にした質問に、島津は笑顔のまま答える。
「俺は飯を食いに」
「レストランは」
「今日はシフト入ってないんで」
「そうですか‥‥‥」
 それきり会話が途切れる。そういえば、こうしてゆっくり話をするのも久し振りだ。互いの職場に顔を出す事はあるが、どちらかが仕事中では挨拶程度しか話す時間もない。近況を尋ねようとして、はたと気付いた事に口を噤む。同じ質問をされた場合、答えようがない。
「そうだ、ちひろさんも腹減ってません? すぐ近くの屋台で旨いケバブが売ってるんで、買ってきますよ」
「え、あの」
 すぱっと立ち上がった島津は、待ってて下さいね〜などと言って走っていってしまう。空しく上げた手を下ろして、ちひろはブランコに座り直した。変わった人だと、改めて感じる。
 最初に会った時は随分とぽややんな人だと思ったのだ。だが、内心大丈夫かなと思いつつ紹介した高級レストランのウェイターも、問題なくどころか立派にこなしている。うっかりが過ぎてこんなところでへこむしか能のない自分とは、えらい違いだ。
「‥‥‥お待たせしました。はい、どうぞ」
 戻ってくる気配に顔を上げると、ケバブと野菜を巻いたピタを、丁度差し出されたところだった。礼を言って受け取る。
「あ、お代‥‥‥」
「まぁとりあえず食べてくださいよ、冷めたらおいしくないでしょ、こういうのは」
 隣のブランコに座りながら、島津はそう促す。てこでも受け取ってくれそうにない様子に、食欲は全くなかったものの、ちひろはほかほかのケバブを巻いたピタを一口かじった。リワマヒ国の食べ物は、いつもながらにとてもおいしい。
「おいしい‥‥‥ですね」
「それは良かった。あ、これジュースです」
 渡されたプラスティックのカップを受け取り、甘酸っぱいマンゴーの味を吸い込む。隣に座った島津も、同じようにピタをほおばっている。それを横目で見ながら、ちひろは無言のままピタを食べ続けた。旨味が口にあふれる度に、自分が実は腹を空かせていたことに遅まきながら気づかされる。
「‥‥‥おいしかったぁ」
 結局いささかがつがつとした様子でそれを全部食べ終え、ちひろは満足の吐息を漏らした。包み紙をくしゃくしゃとまとめて、空になったカップに押し込む。
「ほんと、リマワヒに来て良かったと思うのってこういうときですよね。なんつっても飯がうまい」
「はい」
 そう頷きながら、島津が自分の働く店に来るときはいつも二人前平らげていたのを思い出し、ちひろは思わず笑ってしまう。この人は、本当においしいものが好きなのだなぁと思って。
「飯がうまいってのは全ての基本ですから‥‥‥って、どうしました?」
 不思議そうな顔をされて、答えようもなく首を振る。それでもくすくす笑いは止められなかった。怪訝そうな顔をすぐに笑顔で散らして、島津はうんと一つ頷く。
「元気、出たみたいですね。良かった良かった」
「え?」
「部屋まで送りますよ。こんな寒いところにいつまでもいるのは体に良くない」
「あ‥‥‥」
 立ち上がってにこにこと笑っている島津の顔を見上げ、ちひろはようやく気がついた。心配をかけていたのだ。そうと気付いて、申し訳ない気持ちと共に別の気持ちも湧き上がってくる。それは随分と矛盾した感情だったけれども。
「あの」
「はい、なんですか?」
 見返してくる視線は穏やかだ。それに助けられるように、ちひろは口を開いていた。

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