ちひろ@わかばのリワマヒ日記帳

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zoom RSS ストーリーによるAマホバリエーションその1 「リワマヒ国への長い道」1-2

<<   作成日時 : 2008/01/02 19:03   >>

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〜2〜

 雨雲をかろうじて追い抜くようにやってきたタクシーは、なんだか見るからに不吉な黒光りの車体だった。ばたりとドアが開く。お先にどうぞ、と促されて先に後部座席に乗り込んだちひろは、バックミラーに映っている運転手の顔を見た瞬間に固まった。
(‥‥‥こ、怖‥‥‥っ!)
 小柄な上に生まれついての小心者故、ちひろは大きな男の人とか怖い顔とか無愛想な態度とか、そういうものが全部苦手だった。そのストライクゾーンに150キロストレートで投げ込まれたような風貌の運転手が、無愛想一色の声でじろりとこちらを睨んでくる。
「お客さん、どちらまで?」
 苦手だからといって、固まっていては話が始まらない。ごくりと唾を飲み込んでから、ちひろは努めて脳天気な笑顔を作って答えた。
「すみません、この先にある休憩所までお願いします」
「タクシーに乗れてよかった〜。代金は、わ、ワリカンということでお願いします‥‥‥」
 そう、おじさんの不機嫌オーラを歯牙にもかけた様子のない、こんなのほほんとした人が連れでは、自分でどうにかするしかないじゃないか‥‥‥! 
 それでも、この蟹の甲羅風味の厳つい顔した運転手と一対一になるよりは遙かにいい。
「勿論ですよ〜」
 こちらには苦労しなくとも笑みで答えられ、ほっとしたところで乱暴にタクシーのドアが閉まる。
「えー、ここですね」
 そういって地図を見せようとした島津のアクションを封じるように、タクシーは急発進した。
(ギャーッ! 怖いよぉぉぉ!)
 出来ることなら今すぐ下りたい。そんな気持ちを挫くように、タクシーの窓に当たり出した雨粒はあっという間に勢いを増して、窓から見える風景を流していってしまう。なんだか泣きそうな思いでそろそろと島津に視線を向けると、島津は苦笑を浮かべて肩をすくめて返した。とはいえ、運転手の様子を怖がっている様子はどこにも見えない。
(そ、そりゃそうだよね‥‥‥男の人だもんね)
 そこは心強い。だが同時に、この恐怖感と焦りを共有しては貰えないだろうという焦燥感も湧き上がる。
(私が、しっかりしないと‥‥‥!)
「そういえばちひろさん。野球はお好きですか?」
 車内に渦巻いているものすごい緊張感など露程も感じていないようなのほほん声に、心の中でひぃぃぃっと悲鳴を上げる。
(ほ、ほんとマジで私が、しっかりしないとぉぉぉ‥‥‥っ!)
 ついついきっと島津の顔を睨みつけてから、ちひろはさっきと同じように精一杯明るく前方の運転席に向かって身を乗り出した。
「運転手さんは、リワマヒの方ですか?」
「ああ」
 ベースブースト入ってそうな重低音の返事に、内心また竦み上がりつつ笑顔をなんとかキープする。まったく、なんだろうこの冷や汗は。
「リワマヒって住みやすい国と聞いているんですが、どんな感じでしょう?」
「どうだかな。俺はリワマヒの生まれだよ」
「生まれも育ちもですか。実は私、今度リワマヒにご厄介になるつもりなんです」
 笑顔笑顔‥‥‥念仏のように脳裏で唱えつつ、ちひろはともすればもつれそうになる舌をなんとか操る。返事はバックミラー越しの一瞥と嗤う気配。冷や汗がいっそうひどくなる。
 地雷を踏んだかと焦る思考がくるくると空回りを始める。なんとか次の話題を探さないと、完全にテンぱった状態で、その思いだけが前のめりに湧きはするのだけれど。
「ふむ。リワマヒを見て回るなら、オススメの場所とかありませんか?」
 やっぱりのほほんとしたままの声が、絶妙なタイミングで救いの手をさしのべてくれた。はっと向けた視線の先で、島津がまあまぁ落ち着いて、というようににこりと笑った。
「オススメ?」
「ええ、やっぱりこういう事はガイドブックなんかより、直にいろいろ知ってらっしゃる人に訊く方が良いネタ貰えそうですから」
 ふん、と鼻を鳴らして前の座席は沈黙する。思わずぎゅうっと両手を握って、ちひろはなににとも誰にとも知らずに祈った。
「‥‥‥まぁ、有名なのは遺跡街だの長城だのだけどな。穴場としてオススメなのは農村地域の方だな。もちろんタバタ農園みたいな観光客相手用のじゃなくて」
 低い声が奏でるように紡ぎ出した答えに、全身から力が抜ける。思わず深々とシートに埋もれて、ちひろは深々と息を吐き出した。
「ふむ、そういえば日の暮れる里という、それは美しい場所があると聞きました」
「兄ちゃん、そこに行くにはちっと時季外れだったな。秋口の夕暮れが、あの里は一番美しい」
 笑われて、島津も気にした様子もなくそれに同調する。良かったと心底ほっと息をついて、ちひろは急にぐるぐるしていた自分が恥ずかしくなってきた。またやってしまった‥‥‥そんな思いに軽く凹む。この、すぐパニクる癖はどうにかならないもんだろうか。こんな事で、本当に医者になれるのだろうか‥‥‥。
「‥‥‥ねぇ、ちひろさん?」
「え、あ、は、はい‥‥‥っ」
 急に声をかけられて、訳も判らず頷く。またしても向けられた笑顔が、さっきと同じ事を無言のまま語っている。ちひろは胸に手を当てて、もう一度、今度は意識して深く息を吸う。
 凹むのはあとでも出来る。とりあえずは、せっかく和やかになりかけたこの空気を、自分がぶち壊してしまわないように。
 島津が脇に置いた地図を取り上げて、話題になっているところを探し当てる。バックミラーに映る顔は相変わらず怖いのだけれど、島津の言葉につられるように笑っている声は、もうそれほど怖くは聞こえなった。

  To be Continued

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