ちひろ@わかばのリワマヒ日記帳

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zoom RSS 5/3ゲームログSS【リワマヒの一番長(くてもの悲し)い日】後編

<<   作成日時 : 2008/06/09 20:47   >>

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皆見'S Turn
PM2:50

「参ったなぁ……」
 後ろ手で縛られて壁際に座らせられたまま、もうどれくらい経っただろう。皆見はもう何度目かになる呟きを漏らし、言葉の割にはさほど参っていない様子で目の前に繰り広げられている阿鼻叫喚を眺めた。
(まさかあの定食屋が、あのファンキーなおっさんの仲間だったとは……)
 それでもって、そのファンキーな集団がテロリストだったとは……さすがにまったく予想していなかった。
 髭面で人によってはむくつけき体格の男達が、恰好だけは一様に愛らしいメイド服やナース服やセーラー服を身にまとい、狙撃銃だの突撃銃だのを持っている様子は、なんだか奇妙な風刺劇でも見ているようだった。とはいえ場に漂うぴりぴりとした雰囲気は本物で、下手に軽口を叩こうものなら即座に口の中に銃口を突っ込まれかねない。
(肩がこるなぁ……)
 殺気だった雰囲気というのはどうにも苦手だ。意味があるのかないのか銃を手にうろうろとしている連中や、固まって唾を飛ばさんばかりの勢いで激論を戦わせている連中。せっかくの恰好が台無しだ……とは、一般の感想とは多少ずれているかもしれないが確かに皆見の本心だった。
 それにしても、洩れ聞こえてくる『マリリン』という名前の主はやっぱり、昼間であったあの髭ナースなのだろうか。『裏切り者』とかなんとか、なかなか過激なことを言われているわりには、一方でやたら庇うような発言も聞こえてくる。どうもどうやら、この集団のリーダー格だった人物らしいが……。
(う〜ん……)
 据わりが悪い、というのはこういう事をさすのだろうか。
(……ま、いいか)
 そこを追求したところで、自分が解き放たれる可能性はなさそうだ。というか、下手に髭メードと遭遇した話をして、拷問なんかにかけられたりしたらたまったもんじゃない。
 どうしたもんか……改めて考える。この国にまだ知己はいない。だから自分がここに囚われていることを知る人はいない。どころか、下手すれば公園爆破の犯人として、彼らと同じ穴の狢だと思われているかもしれない。
(えーっとその場合、SWATなんかが乗り込んできてこう乱戦になったりして、でもって流れ弾が当たったりとか一味と思われて……射殺?)
 奔放な想像力が蜂の巣ダンスを踊る自分の姿を克明に描き出す。さすがにぞっとした。ようやくプレイヤーになったというのに、いきなりPCロストなんて、しかもこんな間抜けな事件に関わってなんて、嫌すぎる。
(えーとえーとこういうときは……そうだ!)
「おーい、うちトイレに……いや、なんでもないです」
 ナース服をぴちぴちに着込んだたくましい見張りの男が、表情だけはなよりと微笑んで屎尿便を掴んだのを見て、皆見は速やかに作戦を放棄した。
(作戦その2……『持病のしゃくがぁぁぁっ』っじゃ、またこのおっさんが来そうだもんなぁ……その3、『君可愛いね、この縄ちょっとほどいてくれない?』……駄目だ、こいつじゃ言ったうちがメンタルダメージ受けそうだし……その4……)
 表面上だらっと座り込んだまま皆見の脳裏で展開される脱出作戦は、遅々として進む様子をみせなかった。


銀'S Turn
PM9:00
 
 日もとっぷりと暮れた午後9時。アキハバ遺跡街にほど近い廃ビルをぐるりと囲むようにして、部隊は展開を完了した。
「東さん、いよいよですね」
 今はすっかりと動きやすい学兵の制服に着替えて、銀は急遽立てられた指令テントから廃ビルを見上げた。鷹揚に構えた東は、そんな銀をなだめるような声音で声をかけてくる。
「銀さん、ひょっとして貴方、私がこのビル内への突入を命じると思ってます?」
「え? 違うんですか?」
 てっきりそうだと思っていた。確かに突入は命がけだろう。しかし、銃や火薬、爆弾まで大量に持ったまま籠もっているような連中相手に、これだけの包囲網を敷いてなお交渉なんて出来るだろうか。 
「私が包囲網を敷いたのは突入の事前準備ではなく、これから逃げ出してくるだろう連中を逃がさないようにする為ですよ」
「逃げ出して、くる……?」
 断定する言葉を、思わず繰り返してしまう。一体どんな作戦で、東はそれを可能にするつもりなんだろうか。
 不明瞭な表情を見切ったのだろう。東はもの柔らか気な笑みを作って銀を見つめた。
「銀さん、我が国の戦争に関する国是はどうあるか、覚えていますか?」
 聞かれて慌てて、銀は脳裏でページを繰る。
「『生活に対する大量破壊活動である戦争行為』を脅威と考え、 『最小局面での早期決着、再建に貢献する』ことで対応していく ……ですよね、確か」
 多少自信なさげに口にされた言葉に、東は頷いた。
「その通り。そして今回は、こちら側も向こう側も同じリワマヒの民です。相争って犠牲者が出るようなことは、あってはならない……ましてや、藩王様の留守中になどはね」
「や、まぁ……そりゃそうですけど」
 東の言うことは正しい。内戦は結局国民が傷つき国内が疲弊するだけだ。だが、実際問題ああもやる気の相手を一体どうやって戦意喪失させるのか。
 工兵の記章をつけた学兵が走り寄ってきて、東に敬礼した。
「準備全て整いました」
「ご苦労様でした」
 差し出されたそれを、東は礼を言って受け取る。それに視線を向けて、銀は更に怪訝な顔になってしまった。一本の、ワイヤレスマイク。一体これでなにをするつもりなのか。月並みに投降を呼びかけたりするのだろうか。そんなことで止まるはずもないだろうことは、東にも判っているに違いないのだ。だとしたら、なにを。
「それでは始めます。各部隊の隊長に伝えて下さい。敵の手にはまだ爆弾があるでしょう。だがそんなことに怯む我々ではありません。藩国の風俗秩序はわれらの手で守るのです……と」
 東の言葉に敬礼をして、伝令兵が無線へと向かう。東がおもむろに紙を取り出しマイクのスイッチを入れるのを、銀だけではなくその場にいる全員が、固唾を呑んで見守った。
『『女装組合』組合員に勧告します。速やかに武装を放棄して、表に出てきなさい。今ならば、その罪を問わず』
 周辺のみならず街の方までも聞こえそうな大音量で、各所に取り付けられたスピーカーが東の声を流す。静寂に響くその声を更にかき消す射撃音。東は言葉を切って、やれやれと肩をすくめた。
『……ならば仕方ない。個別にて対応いたしましょうか』
 思わせぶりな言葉の切り方に、銀は首を傾げる。個別の対応とは、いったい……。
 周囲のざわつきを無視して東は手にしていた紙に目を落とし、おもむろに顔を上げ、息を吸い込んだ。
『田中 一郎さーん、奥さんが泣きますよー!』
 再び、世界は凍り付いた。沈黙の帳が落ちていく中、東の声の残響が遠くへと消えていく。
 薄い笑みを浮かべつつマイクを持ち直す東の姿を、銀は戦慄に支配されつつ見つめた。他の者たちも一様に驚愕と畏怖に貫かれたように動かない。
 確かに、その方法ならば国民相撃つことにはならないだろう。だがしかし……。
(悪魔だ……! ここに悪魔が降臨している……っ!)
 その、紫衣の悪魔は、笑みを絶やさぬまま再び口を開く。
『私たちは、皆さんの投降を受け入れます。いまのうちですよー。次は……佐藤さーん。今年小学校に上がるお嬢さんにしられてもいいんですかー?』
 そこまで口にし、息を継ぐように一拍置いたその瞬間だった。廃ビル正面のドアが唐突に内側から吹き飛ばされ、中からめくるめくような服装の男たちが雪崩をうって飛び出してきた。泣く者、喚く者、飛び出したはいいがそこで崩れ落ちる者、あっという間に辺りは阿鼻叫喚の嵐になる。
 こうなることを予期していたのだろう、東は動じる様子もなくマイクのスイッチを切り、通信兵を振り返った。
「全軍に通達。ただの一人たりとも逃すな、と。ああ、多少手荒にしてもかまいませんが怪我はさせないように」
 穏やかに声をかけられて呪縛を解かれたのか、通信兵はしゃちほこばった様子でそれでも敬礼を返し、通信機をいじりだす。その手がぶるぶる震えているのが目に入って、銀はものも言わずに彼の肩を叩いてやりたい気持ちに駆られた。


皆見'S Turn
PM9:10

「なんて……なんて血も涙もない奴なの……っ!」
「鬼! 悪魔っ!」
 血を絞るような叫びを上げ、がっくりと肩を落とし、よよよと泣き崩れる女装の男たちを眺め、皆見は内心驚嘆の念を禁じ得なかった。
(まぁた容赦ないお人もいたもんだ……)
 リワマヒ国摂政の東と言えば、昨年末から今年頭までのゲームでその名をよく見知ってはいた。しかし……遠くで伝聞を受けるのと間近で見るのとは大違いだ。これほど、敵に回したら恐ろしそうな人だったとは。
(まぁでも、これでうちも解放されるかな)
 縛られたままの状態で隅っこにでもいれば、まさか仲間とは思われまい。そんなことをのんびりと考えていた皆見の前に影が差す。おや、と顔を上げきる前に、ぐいっと胸ぐらを掴まれて無理矢理立たされる。至近距離からぎらぎらとした視線を叩きつけられ、皆見は一瞬考えてにこりと笑った。
「もしかして、あんたが田中さん?」
「……殺すぞ、ガキ」
 ドスのきいた脅しはなかなかだった。その前にぐっと詰まったりしなければ、なお良かっただろう。本名田中は皆見のこめかみに拳銃を突きつけ、周りに残っていた仲間を見回す。
「こいつを盾に脱出するぞ。リングゲートを一つ開放させて、他の国へ移動する」
 そうきたか、この期に及んでまだのんびりモードのまま、皆見はこめかみの銃口の冷たさを受け止める。とはいえ、未だになんだか現実感がない。いっそ目を閉じて彼らの声だけ聞いていたら、まだ切迫した気分が味わえるかもしれない。
「こらこら待て待て。お前たちはどうしてそう短絡的なんだ」
 不意に背後から聞こえてきた聞き覚えのある声に、皆見は首を巡らせることも出来ないまま瞬きした。目の前の連中も、一様に驚いた様子で彼の背後に視線を向けている。
「マリリン……!」
 本名田中が妙に鼻にかかった声でそう呟き、皆見を引き摺るようにして後ろを振り返る。ぐるりと回った視線の先に立っていたのは、確かに昼間一瞬だけ出会ったナース服の男だった。
「やっぱりおっさんか」
 確認するように口を開くと、辺りがざわつく。それを気にした様子もなく、男はにかっと笑って皆見に手をあげた。
「また会ったな、若いの。悪いが、今度こそつきあって貰うぞ」
「おっさんの頼みは」
「聞いておいた方がいい。今回ばかりはな」
 本名田中から拳銃を受け取ったナース服の男は、思わせぶりに安全装置を外した。真っ直ぐに向けられた銃口から視線を天井へと向けて、皆見は深くため息をついた。


銀'S Turn
PM9:20

 雪崩をうって飛び出してきた『女装組合』の興奮しきった会員たちを、なんとか静かにさせて割り出されていた名簿と照らし合わせ後送する……そんなかなりへとへとになる仕事を終えて、銀は東に声をかけた。
「東さん、あの」
「建物に残っているのは何人ですか?」
 当然のように機先を制されて、銀は一度咳払いし、名簿に視線を落とす。
「あと十人です。それと、皆見さん」
「そうですか」
 僅かに眉をひそめて、東は立ち上がる。素早く展開し直した部隊が、早くも闇に紛れて建物にとりつこうしていた。
 突然だった。辺りを揺るがす轟音に、全員の動きが止まる。二階のバルコニー部分が粉塵を巻き上げながら崩れ落ちていくのを、銀は呆然と見守った。
「摂政閣下、すまないが部隊を引いてもらえんかな。他にも幾つか、もっとでかいやつを仕掛けてあるんだ。同じ国の人間を吹き飛ばすのは忍びない。あんただって、手塩にかけた軍隊をこんな事で傷つけたくないだろう?」
 地上に声が落ちてきて、最上階のバルコニーに人影が動く。素早く向けられたサーチライトが捉えたのは、銃を持った髭面ナースと彼に押さえられたアフロヘアの青年だった。
「皆見さん!」
 咄嗟に名を呼ぶ。青年は驚いたように銀の方へと視線を向けた。その動きを、髭ナースが押さえる。落ち着き払った声で、東がマイクのスイッチを入れた。
『貴方がマリリンですか?』
「まぁな。で、どうする? 仲良く天国に行くかい?」
『行き先が一緒と決まったわけでもないでしょうが……要求はそれだけですか?』
「とりあえずはな。ちょっと仲間と相談させて貰うよ。言っておくが、建物内に一人でも足を踏み入れたら」
『判っています』
 二人の姿が、室内へと消える。マイクを切った東は振り返りざま銀の手から名簿を引き抜き、通信兵へそれを渡した。
「ゲートリング管理部に連絡。このリストに印のついていない十名がゲートを利用する可能性があります。監視を怠らないように」
「え」
 断定の言葉に、銀は咄嗟に二人の消えたビルの最上階を仰ぐ。
「あんな悠長な提案の仕方をする辺り、時間稼ぎでしょう、どう考えても」
 そう言って、数名の部隊長を素早く呼び寄せ、東は矢継ぎ早に指示を出していく。そのやりとりから気をそらして、銀は幾条ものサーチライトに照らされる廃ビルを見上げた。東の推測が正しければ、あの中に残っているのはさっきの男と皆見だけということになる。
「……東さん、俺、ちょっといってきます」
 探索の指示を出し終えた東が、その言葉に銀を見返す。探るように向けられた眼差しに、銀は背筋を伸ばす。
「俺一人なら、どうにでもなります。皆見さん、せっかくうちの仲間になったのに、最初からこれってのもどうかと思うし」
 そう、だから一刻も早く助け出して、それから歓迎の宴会をするのだ。自分が、そうして貰ったように。
「じゃ、いってきます」
「……ちょっと待ってください。これを」
 きびすを返した途端に呼び止められて、なんだろうと振り返る。東は、銀に向かって握った手をさしのべた。自然と伸ばした手に、固い小さなものが落ちてくる。
「発光筒です。床でもどこでも叩きつければ、目つぶしにはなりますね」
「東さん……」
 本気で言っているんだろうか……思わずそんな目を向けてしまった銀に、東はおかしそうに小さく笑って、それからふっと真顔になる。 
「我々は、その光を合図に突入します。タイミングは、お任せしますよ」
 真摯な声に、渡されたそれをぐっと握りしめてから逆の手で敬礼し、今度こそ銀は走り出した。


皆見'S Turn
PM9:25

「で、誰と相談するって?」
 室内に引きずり戻されて、外からは見えない隅に座らせられ、皆見はわざとらしく頭を巡らせて辺りを見回す。向かいの椅子に腰を下ろして、髭ナースは眉尻を下げて苦笑する。室内にいるのはそれだけ。他の連中は全て、この男が入ってきた地下の非常口を使って脱出していた。
「すまんなぁ、つきあわせて」
「そう思うならそれどけろ」
「いやいや、そうはいかん。もう少しの辛抱だ。堪えてくれ」
 まっすぐ自分を狙っている銃口と、それとは裏腹にしみじみとした色合いの言葉に、皆見はやれやれと肩をすくめる。
「これからどーすんの、おっさん」
「まぁ、もう少し様子を見て……投降する」
「投降?」
「勿論だ。これだけ世間様を騒がせたんだ、誰か責任を取る奴がおらんと」
 至極当然といった言葉に、皆見はしばし押し黙る。
「……けどおっさん、最初からここにいたわけじゃ」
 そう、騒ぎになって、この場が包囲されて、逮捕者が次々と出てからようやくやってきた。騒ぎを起こした首謀者というには、それはあまりにも……。
「まぁ、『女装組合』を作ったのは俺だからなぁ。まさかこんな事になるとは、おもっとらんかったが」
 はははっと笑う声には僅かな陰りもない。ある意味天晴れとしか、言いようがなかった。
「ま、こんな騒ぎも起こしてしまったし、ここらが潮時だろう。これ以上、あの方にご迷惑をかけるわけにもいかんて」
「あの方?」
 髭ナースの声に、ほんの少しだけ思慕の情が滲む。それが不思議で、つい聞き返してしまう。
「そう、あのお方、だ」
「……?」
 ほんのりと暖かい笑みまで浮かべて、髭ナースは少しだけ視線を上に向ける。そこになにかあるのか、自分の頭上なだけに皆見には見て取ることも出来ない。
「まぁそんなわけだ。あと……そうだな、15分、いや、10分だけ、俺につきあって貰うぞ、若いの」
 そこまで若いの若いの言われるのは心外だ……そんなことを言おうとして、皆見はふと思い直す。
「……皆見だ。うちの名前は皆見一二三」
「む、そうか。俺の名前は」
「別にいい」
 応えるように名乗ろうとするのを遮る。さっきの連中の反応からしても、本名を名乗るというのは勇気がいることだろう。たとえ、これから捕まる人間だとはいえ。
「そうはいかん。名乗られて名乗り返さんのは礼儀にもとる振る舞いだろうが」
 真顔で身を乗り出した髭ナースに、皆見はにやりと笑いかける。
「おっさんの名前に興味はない!」
 すぱっと斬りつけるような一言にぐっと詰まって、髭ナースは呆れたような溜息をついた。
「ほんっとに手厳しい奴だなぁ、皆見よ」
 次いで生まれた高笑いの唱和は、狭くすすけた部屋を不思議に明るく照らし出すようだった。


銀'S Turn
PM9:30

 頭上から聞こえてきた笑い声に、足が止まる。心から楽しげなそれに、いったいなにが起こっているのかいぶかしむ。さっきのバルコニーでの様子が芝居だとは思えないが、しかし。
 覚えた躊躇いを振り切って、銀は極力音を立てないように階段を上がった。コンバットブーツが廃材や砂利を蹴飛ばさないようしっかりと床を踏みしめ、手には拳銃。一カ所だけ光が漏れているドアの脇の壁ににじり寄って、中の様子を確認する。
 銃を突きつけた方、突きつけられた方、その双方が楽しげに笑っている。髭ナースの手にある拳銃は小揺るぎもせずに皆見の胸を狙い、皆見は依然両手を縛られたまま床に座り込んでいる。その様子はとても芝居とは思えない。やはり、共犯関係にあるというのは違うようだ。
 だとしたら、この状態で談笑できるとはたいした胆力の持ち主だ……改めてそんなことを感じ入り、銀はゆっくりと深呼吸する。
 蹴り一発で、錆びたドアは派手な音を立てて開いた。踏み込むと同時に相手の胸に銃口を向けて、銀は驚いたような顔の髭面ナースに短く告げた。
「動くな」
 一瞬驚いたような表情になって立ち上がりかけた男は、ふっと息を吐くようにしてまた椅子に身を沈める。
「ばれてたか……摂政閣下は打つ手が早い」
「銃を床に置いて、手を挙げるんだ」
「にしても、たった一人しか送ってこないとは……確証はない、ということなのか? 若いの、お前、特攻志願か?」
「いいから早くしろ……っ」
 首をかしげながら、まるで世間話でもしているようにそんなことを言ってくる男に、ちりちりと苛立ちが募る。それをなんとか押さえつけようとして押さえきれず、銀は語気荒く男を促す。やはりそれを受け流すようにして、ナース男は考え込むように唇を引き締めた。
「……なぁ、若いの。先ほどこの皆見にも言ったんだが……あと10分経ったら俺は投降する。だから、あと少しだけ待ってはくれんかな」
「……それは」
 上目遣いにそんなことを提案されて、言葉に詰まる。なんとなく、この男が嘘を言っているようには思えなかった。10分欲しいというのは、まさしく東がそうと読んだとおりに、仲間を逃す時間稼ぎだろう。だが、実質それはもう意味をなさない。今こうしている間にも、彼の仲間を捕らえる為に部隊が散っているのだ。自分がこ こに現れたことで、男にもそれは判っているだろう。
 改めてそれを指摘するべきか。だが、万が一そうと告げることで男が暴れ出しでもしたら、皆見に害が及ぶことは充分考えられる。もしそうなってしまったら、自分がここに来た意味はまるっきり無かったことになる。
 ぐるぐると覚えた逡巡を振り払えないか……そんな思いでちらりと皆見へ視線を向ける。出会った視線にはどんな焦りも憤りも感じられない。朝方ちらりと見たときに感じたひょうひょうとした空気は、変わらずそのままそこにあった。
「……皆見さん、立ってこっちへ」
 自然とこちらも男の提案をそらすように、銀はそう言いかけ……視界の端に捉えた奇妙に見覚えのある何かに、ふと意識を奪われた。皆見の頭上、まるで祭壇のように周りを飾り立てられ、恭しく掲げられた一葉の写真。
(…………えええええええっっ!!?)
 手から力が抜けて、仕込んでいた発光筒がこぼれ落ちる。そのことにも気がつかないまま、銀は割れんばかりに目を見開いて、その写真を凝視した。頭が、真っ白になった上にぐらぐらと揺れる。
 まるで神のごとく奉られたその写真の中、和服姿も麗しいその人物は、賢王の誉れ高きこの国の統治者、室賀兼一王の知る人ぞ知る世を忍ぶ仮のお姿、室賀兼一子その人だった。

 以下次号

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