ちひろ@わかばのリワマヒ日記帳

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<<   作成日時 : 2008/10/16 20:23   >>

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『なんでかな。君が笑うと、お日様の側にいるみたいな気持ちになるよ』
 それは、私の方。私の方こそデス……。

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 旅行社からの連絡を受けてまず彼女がしたことは、クローゼットの中身をぶちまけることだった。
 ベッドといわず床といわずありったけ服を広げ、セットしてみては眺め、また別の合わせ方をして並べ、その前にしゃがみ込んで悩ましい思いにため息を吐く。
 額に手を当てて、視界を横切った褐色の肌に、無意識に顔をしかめる。しゃがんだまま両腕で体を抱きしめ、まるで怖がっているようにちらりと向けた視線の先、鏡に写った自分は泣きそうな顔で身をちぢこまらせていた。
 可愛いと、そう思ってほしいのに。普通の女の子のような、リボンやフリルやレースのついた可愛い服装は、自分には到底似合わない(ここにある服だって、ガーリッシュで可愛いものは一着もない……!)。
 もちろん、自分のこの外見は、大切なお父様とお母様に貰ったとても大事なものだ。愛着だって持っている。たとえばこの黒い髪、ブラシを入れながらいつも、なかなかのものじゃないかなんて思ってる。
 だけど、ああそうだ。普通の男の人から見て、可愛いっていうのはきっと自分みたいな娘じゃない。もっとどこもかしこも小さくてはかなくて、守ってあげたくなるような、そんな子を可愛いというのだ。
 無意識にいっそう身をちぢこまらせて、ヨーコは唇を悲しげに引き結んだ。
 可愛いって思ってほしい。だって可愛いものには、誰だって微笑まずにはいられないものだから。だけど自分は可愛いには程遠くて、また笑いかけてもらえるかどうか、判らない。
 ぶんぶんと髪が乱れるほど頭を強く振って、ヨーコは弱気な気持ちをなんとか追い払おうと、ぎゅっと拳を握る。
 この褐色の肌にも髪にも心惹かれると言ったあの人が、また逢いたいと言ってくれた。そう胸に刻むように思うだけで、ふわふわと身も心も頼りなく宙を漂ってしまう。それでいて、踊り出してしまいそうな、叫び出してしまいそうな、息が苦しいくらいの圧倒的な感情が、ほとばしるのをどうにも出来なくて。
 可愛いって思ってほしい。あの輝くような明るい笑顔を、また見たい。それから、好きだと言ってくれた笑顔も、見て欲しい。一目貴方に逢えたなら、もうそれだけで笑顔になれる、そう思うから。
 あの人の笑顔が、自分を強くも弱くもする。怖くてしゃがみ込んでしまうのも、なんでもできると思ってしまうのも、同じ想いの裏表。だから、自分に出来る精一杯で、当日を迎えたい。
 困難なミッションに立ち向かう兵士のように、ヨーコは決意に満ちた顔をあげ、目の前に広げられた洋服達に再び視線を定めた。
 
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 人気のない真夏の世界、遠い潮騒の音も耳に入らないまま、ヨーコはゆっくりと歩いていた。もしもここに人がいたら、ぼんやりしているように見えたかもしれない。実際のところは緊張と昂揚が嵐のように内側を揺さぶっていて、もうそれでいっぱいいっぱいなのだった。ゆっくりとした足取りなのは、足下が頼りないが故。一足ごとに、下ろす爪先が震えてしまいそうだから。
 待ち合わせにと指定された場所に近づいていくほどに、その感情は高まって、今すぐ走り出したいような衝動にさえ駆られる。それが、彼の待つ方向へなのか、その反対へなのかは、自分ですら判らなかった。
 視界がやがて捉えたのは、陽炎揺らめく中に一人立つ彼の姿。女性にしては破格の長身である自分でさえ視線が上がってしまう大柄な体躯に、しかし威圧的なところは皆無だ。それはきっと、彼の明るく優しい気性がオーラのように放射されているからなのだろう。
 何故か正反対の方向を向いてきょろきょろと首を巡らせている姿に、ほっとする。近づいていく姿を見られたら、もっと足が上手く運べなくなる気がしていたから。そうして知らず詰めていた息を吐き出したことで少し力が抜けて、彼女は近づきながら熱い空気を吸い込んだ。
「こんにちワです!」
 そう叫んだ瞬間、心臓が、大きくその存在を主張する。全身が、その鼓動の波で破壊されてしまいそう。本人も意識しないまま切なげに投げた眼差しの先、肩を揺らして振り返った彼の顔に浮かんでいたのは、まばゆいばかりの喜色に満ちた笑顔だった。そのインパクトが、見えない振動となってヨーコの全身を叩く。
「あー! ヨーコさん! こんにちは、もの凄く逢いたかった!」
 自分の顔が、もっと笑顔になるのが判った。一瞬そのまま抱き着いてしまいたい衝動が弾けそうになって、必死でそれを押しとどめる。自分と彼は、そんな間柄じゃない。そんなことをしたら、びっくりされてしまうに決まってる。
 衝動を堪える力はそのまま、かぶっていた麦藁帽子で顔を隠す動作に繋がった。
「隠さないでよ。その、もっとよく顔を見たいんだ」
 まろやかな声で、そんなことを言うなんて狡い。こちらはもう、その笑顔と眼差しだけで胸が壊れてしまいそうな気持ちなのに。
「恥ずかしいでス」
 いつも以上にたどたどしくなりそうな舌を操って、ちらりと彼を見上げる。恥ずかしい、見られていると思うだけで。そのまま倒れてしまいそうで、まともに視線が返せない。
 それなのにもっと見ていてほしいとも思うなんて、自分はどうかしてしまったんだろうか。
「うぅ。恥ずかしがりやサンめ。俺も照れてる。どきどきして汗かいてる」
 そう言って差し出された掌は確かに、汗で濡れている。与えられた視覚情報に、頭が追い付かない。気持ちだけがとめどなく走っていってしまいそうで、怖い。
「え、ええと。どこか行きますデス」
「そうだね。日射病も怖いし。どこ行こうか? 砂浜で遊んでもいいし、海に入るのも素敵だよね。ヨーコさんは行きたいところとかある?」
 なんとか落ち着きを取り戻そうと口にした一言に、彼は跳ね返るように応えてくる。褪せない笑顔を正面から捉えることはやはり出来ないまま、ヨーコはあらかじめ調べていた行く先を告げる。震えを悟られないようにと自然に小さくなった声に、彼は笑顔のままふと耳を寄せてきた。そんな些細なリアクションですら、肌にびりびりと痺れが走るようだ。反射のように身を固くして、ヨーコはもう一度その名前を囁いた。
 ひそかな危惧はまったく何の問題にもならずに終わった。自分の提案に彼は笑顔のまま勢いよく頷いたのだ。花を見るのは素敵だ、そんな答えにふわんと胸の内が暖かく揺れる。それが嬉しさだと理解する前に、すっと目の前に差し出されたそれに息が止まる。
「手、つないでも良い? ……その、はぐれたら困るし」
 後半の言葉はほとんど耳に入らないかった。代わりに聞こえてきたのは自分の心臓の音。
 なにも言えずに、黙って手を差し出した。頭の中は絶賛高速ぐるぐる中だ。差し出し方がまるで錆び付いた機械のアームみたいだ、変に思われなかっただろうか、掌が汗だらけなのがどうしようもなくて恥ずかしい、引いたりしてないですか? 大丈夫? 顔が見たいなんて言われたって、そんなの無理に決まってマス……!
 それでも手を包む手の大きさと温かさに、ほんの少しだけ勇気と、想いが勝った。自分も、彼の顔が見たい。
 そおっと上目使いに目だけを覗かせると、待ち構えていたみたいに彼の瞳が嬉しげに笑った。胸に弾ける、痛みのない衝撃。降り注ぐ愛おしげな賛辞と懇願の言葉に、どうしていいかわからなくて結局また顔を隠してしまう。
 それでも。実際の現実はともかくとして、彼自身が本心からそう思っていることだけは、確かに伝わってきていたから。


「貰ってくれる?」
 たどり着いたハイビスカス園で、そんな一言と共に差し出された大輪の花を、ヨーコはひそかに息を飲んで見詰めた。すぐに我に帰って、頷く。それが引き金になったように、嬉しさがじわじわと広がり出す。伺う色にほんのわずか陰りぎみだった彼の表情も、ヨーコに呼応するように再び輝いた。
 手を伸ばして、その花を受け取る。ちょうどいい茎の長さに、一瞬迷ってそっと帽子を外す。すかさず伸ばされた手に帽子を渡して、かわりにハイビスカスを髪に飾った。顔をあげる勇気はけれど持てなくて、自分の爪先に視線を落としてしまう。
 彼からの初めてのプレゼントで、身を飾りたかった。自分に似合うか判らなかったけれど、見てほしいと思った。そうすることで喜んでもらえるなら、自分を今満たしている喜びをほんの少しでも返せるのなら。
 ああ、でも恥ずかしい。過敏になった肌に、陽射しよりも強く彼の視線が降ってくるのが感じられて、いたたまれない。見てほしい、見ないでほしい、真逆の思いはどちらも本当。息が乱れて、ああもうこのままじゃ、降り注ぐ熱に熔かされてしまう。
「似合う。とてもよく似合うよ」
 深く息を吐き出しての一言が、細胞にまで震えを引き起こす。彼の声まで熔けたように響くのは……きっと夏の熱さのせいだ。
「俺にとっては君が花だ」
「嘘でも嬉しいデス・・・」
 体を揺り動かすくらいの衝撃の一言に、咄嗟にそう返してしまったのは、そうでもしないと自分が爆発してしまうんじゃないかなんて、本気で思ってしまったせい。頼むからもうこれ以上は、自分を揺さぶらないでほしい。そうしないと……なんだかとんでもないことになりそうで。
 なのに彼は言うのだ。もっと聞いていたいと思う、その柔らかな声で。
「嘘じゃないよ。本当だよ。あー、今なら昔の戯曲の主人公の気持ちが分かる。俺の胸を開いて見せてあげたいくらい」
「・・・・」
「でも、ヨーコさんに逢うと、いつもよりも自分の気持ちを全部出してしまうね……あぁ、小さくならないで」
 動けない。声も出せない。できるならこのまま、熔けて消えてしまいたい。
 自分の中にも暗闇はある。けれど目の前のこの人は、その全てを照らし出して、自分のバランスを崩してしまう。その危うさを判っているはずの自分にさえ、それを心地よいと感じさせてしまう。
 体の前で固く組み合わせていた手を、もっと大きな手が包み込む。体の奥でなにかがかちりと組み合わさる感覚に捕われて、ヨーコは顔を上げた。
 輝くような笑顔が、それが当然の真理であるようにそこにあった。目を眩ませる真夏の陽光に酔うように、くらりと意識が回る。
 目を閉じたのは、それが真実だと思ったから。真実になり得ると、思ったからだ。
 日が、陰った。
 目を開く。瞳が捉えた光景に、熔けかけていたなにもかもが、凍り付いた。
 ああ……体の奥底から込み上げてきた呻きをこらえて、目を逸らす。今度の衝撃には、痛みがあった。
 足が動き出す。遅れて溢れた痺れるような恐怖が、息を乱す。あっという間に意識を塗りつぶしていく、激情。ここにはいられない、どうしても。
 彼の声が背中にぶつかった気がしたけれど、足を早める理由にこそなれ、止める理由にはならなかった。

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 部屋に飛び込みベッドに身を投げようとした、その足を止めたのは一瞬目の端に写った、髪を飾った真紅のアクセントだった。踏んだ急ブレーキに流れた体を姿見に手を伸ばすことでなんとか止め、ヨーコは横目で恐々と鏡を伺う。そこに写る自分の姿に、また目元がじんわりと熱を持ち出す。
 バカだ、自分は。
 優しい、優しい、優しい人。その優しさを勘違いしたのだ。そうであればいいと自分が思う、そんな人だと思い込もうとした。彼はただ、万人に向ける優しさを自分にも向けてくれたに過ぎないのに。
 ふっくらとした頬を熱い雫が伝っていく。何度手で拭っても止まらない涙に、手はすぐにびしょびしょになってしまった。
 バカだ、自分は。恥ずかしくて、気が遠くなりそう。あの時の自分の振る舞いを彼がどう思ったか、考えるだけで全身が震え出す。いっそこのまま、いなくなってしまいたい。
 その場にしゃがみ込んで、鳴咽を漏らしながら自分の体を抱きしめる。視界の端で赤が揺れて、ヨーコは震える手で髪に挿していた真紅の花を抜き取った。目の前に翳す。よく似合う、そう紡がれた声の残響に、新しい涙が頬を伝う。
 そう、彼の言葉に嘘はなに一つなかった。その言葉に篭る熱量を、自分が見誤っただけ。愚かな娘が、自分の望みに目を眩ませただけ。
 いっそ、出逢ったあの日まで時を戻して、彼の全てを忘れてしまえたら……縋るようにそんなことを思い浮かべた途端、今までの比ではない痛みが胸に押し寄せ、ヨーコは喉を詰まらせた。くしゃりと顔を子供のように歪め、鼻を啜る。
 出来るわけない、忘れることも、嫌いになることも。
 ああ、そうだ。出来るわけがない、だってあの人は。だって自分にとっては。


 そう-------------貴方こそ、貴方こそが、私の太陽。

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