ちひろ@わかばのリワマヒ日記帳

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zoom RSS ヤガミ・ユマ@鍋の国様からのご依頼SS-6

<<   作成日時 : 2011/07/03 21:00   >>

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 彼女に合わせた黒のスーツにきつすぎない程度にネクタイを締め、ヤガミは笑みを浮かべつつ彼女に向かって手を差し出す。跳ねるような足取りでその手に飛びついてきたヒサが、ふと長い髪を揺らすようにして彼を見上げる。
「さっき娘あつかいされたー…」
 先ほど謁見した皇帝が口にしたことが、やはり心に引っかかっているらしい。とはいえ、不服そうに僅かに唇を尖らせていても、瞳は笑っている。その笑みを見下ろして、ヤガミは判りやすくからかいの笑みを浮かべて見せた。
「兄妹だよなあ」
「?」
 その切り返しに、なにを言われたのか理解できないという表情になって、ヒサは足を止めた。腕に抱き着いていた手がほどかれる。あえて振り返らずに迎賓館の長い廊下を進んでいくと、すぐに後を追いかけてきた彼女にまた抱き着かれる。
 ちらりと視線を落とすと今度は本当にどこかむくれた顔になっていて、思わず笑いが漏れた。不服を表す絶妙な弧を描いた頬を撫でてやりたい衝動に駆られたが、さすがにそれは自制する。宰相府では自室を除けば、どこに誰の目線があるかしれたものではないのだから。

/*/

 中継でよかったのに……などともごもご呟いているヒサの手を取って、手配していた車の広い後部座席に二人で収まる。目的はよんた藩だ。彼の地では今夜、国を挙げての納涼花火大会が行われる予定だった。
 宰相府でのアルバイトの話や、たった今会って来た皇帝の話をしながら、飛行場へと移動し、機内の人となる。よんた藩まではさほど長いフライト時間ではないけれど、彼女はその時間をも楽しんでいるようだった。
 そうこうしているうちによんた藩の飛行場が近づいてきたらしい。この国の滑走路には海側から入る。普段ならば街の灯りと滑走路の誘導灯が映るモニターに、今映し出されているのは次々と打ち上げられていく花火だった。揺れるモニター越しの景色から、ヤガミは窓の下へと視線を転じる。
「しまった。始まってるな」
 小さな窓の外、翼の先の下の方角にいくつもの光の花が咲いているのが見える。もっとよく見ようと窓に顔を近づけかけて、シートにかかった僅かな傾きと窓に映った姿に、ヤガミはシートに沈み込むようにして場所を空けた。
 わあ、と感嘆の息を漏らし、ヒサはヤガミが開けたスペースに潜り込むようにして、窓ガラスに手を押し当てる。
「上から花火見るっていうのも面白くていいです」
「見上げた時に一番美しく作ると思うぞ」
「あ、それはそうですね。しかも文字だし」
 ほんの僅かよりかかるように寄せられた身体を受け止めるようにして、一緒に窓の外を覗き込む。しかしその視線はすぐに、眼をキラキラ輝かせて花火に見入っている横顔に吸い寄せられた。自然と動いた手が、長い髪を梳くように撫でる。ふと振り向いたヒサが、眼を細めて笑う。蕩けたような笑顔から咄嗟に視線を逸らしてしまったのは、いろいろな意味でまずさを自覚したためだ。暗い空を飾る花火のまばゆさよりも、彼女のその笑顔の方が、自分にはもっとずっと。
 えへへ……なんてはにかんだ笑い声がして、さっきよりもしっかりと小さな身体はヤガミに寄り添ってくる。その腰に腕を回して温かな身体を抱き留め、ヤガミは一緒に窓の外を覗いた。
 鮮やかな色が弾ける様が次第に翼の影に隠れていくのに、ヒサは残念そうな顔になって小さく息を吐く。ほぼ同時に着陸のアナウンスが入ったのを汐に、ヤガミはヒサに席に戻るように促す。
「すぐに見れるさ。席にもどれ」
「はーい」
 存外素直に答えたヒサは、ちょこんと隣のシートに座り直し、シートベルトをつける。それを横目で確認して、ヤガミはゆっくりと降下を始めた機体の振動に身を委ねた。



 空港から乗ったタクシーは、すぐに渋滞に捕まってしまった。なにしろこれが初めての花火大会ということで、どんな状態になるのか正確に予測できた人間はほとんどいなかったらしい。恐縮する運転手に礼を言って車を降りても、歩道も既に会場へ向かう人波で溢れかえっていた。
「わー。流石に人おおいですねー」
 目を丸くしたヒサの感嘆の台詞に、舌打ちでもしたいような心持ちで頷く。勿論あたる対象は、自分の迂闊さだ。
「しまった。なにか予約でもしておけばよかったな」
 予測できていなかったという点では自分も同じだ。まさかこれほどの大々的な規模で、国内外から人が殺到する大会になるとは思っていなかった。それだけ娯楽に飢えているということだろうか……苦い思いとは別にそんなことを考えながら、ヤガミはともすれば押し流されそうになるヒサの身体を抱き寄せる。
「ううん。いいですよーこれでっ」
 ぎゅっと腕に抱き着くようにしたヒサの、それでも嬉しげに自分を見上げてくる健気さに、より強くなる苦さをとりあえず喉の奥に飲み込んでヤガミは口を開く。
「会場まで4km3時間だそうだ。どうする?」
「わー。会場についた時には終わってそうですねっ」
「この近くのホテル、レストランは全滅くさい」
「さすがにここからじゃ見えないかなあ。中継もしてるみたいですけど、せっかく国にまできておいて中継というのももったいないですかね」
 小さな身体でぴょこぴょこと背伸びをしようとする姿は、本当に愛らしいのだけれど。自分の身長ですらまるっきり見える気がしないのだから、いかんせん無理がありすぎる。だからこそなおさらどうにかしてやりたくて、人波にあわせてゆっくり歩きつつヤガミは辺りを見回し考えを巡らせる。
「ヘリでも借りるか?」
 幸い反対車線はそれなりにスムーズなようだ。今から飛行場に手配を回しつつ引き返せば、充分時間的な間に合いはするだろう。彼女がそれを是とするならば、だが。
「んー」
 半分上の空のような返事で、ヒサは自分と同じように辺りを見回している。その様子を見ていると、なんだか申し訳なさが募ってきた。せっかくの彼女の方からの誘いで、絶好のロケーションを提示されたというのに、この体たらくだ。これくらい予測は簡単だったはずなのに、どうやら浮かれすぎていたらしい。一国が切り盛りできようと、恋人とのデートの段取りもつけられないのでは意味がない。
「……考えなしだった。すまん」
「ヘリかー。それもいいかもですね」
 口をついた謝罪の言葉と、彼女のぼんやりとした応答が混ざり合う。すぐにはっとした表情で彼を見上げ、ヒサは慌てたように手を振った。
「え? わ、え、謝らないでくださいっ」 
 当惑と焦りがあどけない顔立ちの上で混ざり合う。
「え、えと、わたしは元々中継でもいいというか、ソーイチローと一緒にいたかったというかっ」
 早口でそう告げる頬が見る見るうちに紅潮していく。ふらふらと視線が泳ぐさまを見つめるうちに、自然とこちらの気持ちも落ち着いてきた。確かにそうだ。自分だって、彼女といられることが第一なのであって、花火を見るためだけに奔走するのは本末転倒だ。花火がどんなに美しかろうと、一緒に楽しめなければ意味がない。
 おろおろしている背中をそっと押すようにして、ヤガミは流れる人ごみから彼女を連れ出した。
「それで、せっかくつれてきてもらったから、えーと」
 なおもわたわたしている肩を抱くようして、頷きながら顔を覗き込んでみる。目が合ってようやく、ヒサも落ち着きを取り戻したようだ。頬はばら色に染まったまま、それでもふうっと息を吐き出して、彼を見上げにこっと微笑み返してくる。その頭を撫でてやりたいような衝動をこらえ、ヤガミは軌道修正を図るようにもう一度辺りを見回した。
「さてどうするか……だな」
 このまま向かったところで間に合わないし、間に合ったとしても会場はごった返していて見物どころではないだろう。それも祭りの醍醐味といえばそうだが、万が一にもヒサとはぐれるようなことにはなりたくない。宰相代理という今の立場を考えても、あまり人ごみの多い場所を無防備にふらふらするのはまずいだろうし。
 高層階のビューポイントも今からでは押さえようもない、空も駄目、となると後の残りは……。
「んーとね。わたしは遠くても平気」
 いつの間にかしっかりと腕を組みなおしていたヒサが、すぐ間近から彼の顔を見上げてくる。
「花火ってかなり離れてても見えるし」
 その言葉に触発されるように、ある考えが思い浮かんだ。広い通りを見回せば、少し戻った道の向こう側に目指す場所が見えている。
「よし」
 彼女の足取りを乱さないように注意しつつ横断歩道を渡り、ヤガミはともすれば足早になりそうな気持ちをなだめながらその場所へと向かった。


/*/


 公道をそれて砂利混じりの道を下ったところで、ヤガミは買ったばかりのスクーターを停めた。予想通り、一つ先の橋の上に、綺麗な大輪の花が咲くのが見えた。一つ、また一つ、はじけては散る光の群舞は、なにかに邪魔されることもなく視界の真ん中に広がっている。
 エンジンを切ってスタンドを立て、後部座席に座ったまま拍手などしているヒサの腰に手を回して、ヤガミは華奢な身体を地面に下ろしてやる。ヘルメットを取った視界は少しクリアになって、夜とはいえ頭上の橋からの明かりや月の光、遠いとはいえ花火の光もあって、心配していたほど暗くもない。
「まあ、文字はよめそうだな」
 ヘルメットをシートにおいて、代わりに取り出した地図を河川敷の草むらの上に広げる。さすがに距離がありすぎるからか、周囲に人の気配はなかった。頭上の橋の上で時々クラクションが鳴らされるのが、唯一の騒がしさといってもいいくらいだ。
「すごいすごい。よく見えますっ」
 同じようにヘルメットを外してシートに置いたヒサが、ちょこんと隣に腰を下ろしてくる。すぐ隣に寄り添うようにした温かな身体に、ヤガミはふと微笑んだ。
 寄り添ったまま、しばらくは無言で花火の上がるさまを眺める。大輪の花が咲くたびに、無意識にかヒサの体はふわりふわりと揺れた。白い頬に、弾ける花火の色が映っては消える。その様子がなんとも愛らしくて、ヤガミは彼女に気付かれないようにちらちらと視線を横顔に送り続けた。
 連続して大玉が上がり、ふと静寂が訪れる。あ、と小さな声を上げて、ヒサはヤガミの服の裾を引っ張った。
「えーとね。今日の花火、集めたメッセージを花火にしてくれるんだって」
「そうか」
 その言葉とほぼ同時に上がった花火が、暗い夜空に大きく弾ける。少し角度は斜めになってはいるが、確かに花開いた愛のメッセージは見て取れた。なかなかに、これはむずがゆいものがあるなと思いつつ、彼女がそれに言及したと言うことは、と思い立つ。
「お前のも?」
「う、うん」
 答える声が上ずった、と思ったら、ヒサはふいにぴとっとくっついていた身を離し、ぎゅっと抱え込んだ膝に顔を埋めてしまった。
「わー」
 夜の闇が邪魔してちゃんと見ては取れないが、おそらく頬も耳も真っ赤だろう。小さく上がった叫び声まで色づいていそうな勢いで、彼女はぎゅうぎゅうと額を膝に押しつけている。きっと、今すぐここから消えてしまいたいような心境なんだろう。
「おもいだしたら照れてきた……」
 そんな心境に陥っているところを大変申し訳ないのだが、見ている方もなかなかこう、くるものがある。こんなこと、口が裂けても誰にも言えやしないけれど、これを可愛いと言わずしてなんと言おうか。この可愛さを世界中に触れて回りたいくらいだ、やらないけど。
「どんなのだ?」
 どうにも口元が笑うのを堪えきれず、しかし彼女がこの状態ならだらしない顔をしたところで他に目撃するものもいまい。盛大ににやにやと笑いつつ、ヤガミはうずくまったまま動かないヒサに声をかける。
「いやもう。えーと」 
 一瞬そのまま腕の中に強引に抱き込んで、顔を見下ろしながら白状させてやろうかとも思ったのだが、あえて手は出さずにおくことにした。なんというか、あまり調子に乗って嫌われたりしたら、それは困る。
 ヤガミの追求に困ったように頭を振って、けれどヒサはぽとぽとと零すように説明を始めた。
「み、みんながね、好きな人にメッセージ送ってるから……」
「……」
「わたしもやろうと思ったんだけど皆みたいなのはその、うん、はずかしくて」
「……」
「でもやりたかったのでとてもシンプルに……うん」
「なるほど」
 こう、腕がうずうずするというか。己と戦っている気分最高潮というか。
 今すぐ抱きしめたい。腕の中にきつく抱き込んで、甘い香りを吸い込んで、髪を撫でたり頬に触れたりしたい。こんなすかした台詞ではなくて、もっと別の言葉を囁いて、それで。
 意味もなく草を千切ったりしてしまうのも大概だとは思うがしかし。
 驚かせたくないし、怖がらせたくない。自分の衝動に、彼女を巻き込むことはしたくない。こちらの強引な態度にもし彼女が流されてしまったりしたら、後悔することは必至だ。彼女とのことで、もう充分すぎるほど後悔はしてきたのだ。これ以上スコアを増やすようなことは、絶対にごめんだ。
 気を反らすために、暗い空を見上げる。夜空を飾るメッセージは宣伝や決意表明のようなものも多いが、やはり圧倒的なのは愛の言葉だった。次から次へと僅かの余韻を挟みつつ打ち上がる言葉は、その一つ一つにそれぞれの歩いてきた道のりがあるのだと思うと、不思議と感慨深い気もして。
 ヒサは石化したかのように、先ほどから動かない。どれがそうなのかと訊ねることもできそうになく、そのかわりに上がったらすぐにそれと判ろうと、ヤガミはいつしか息を詰めるようにして上がる花火を見つめ。
「……あれか?」
 夜空に弾けた、オレンジ色のハート。ちらりと僅かに顔を上げたヒサは、そのままころんと転がってしまった。びくびくかすかに震えているのがもう、なんというか、こう。
「うん……」
 蚊の鳴くような乏しい声に、とうとう笑い声が漏れた。うーうーうなりながら、ヒサは転がったまま更に丸くなる。
「ど、どうどうとわらうがいいです……!」
 笑いながら、髪に触れる。優しく頭を叩く。色々諸々あわせて、これがせいいっぱいの。
「かわいいじゃないか」
「もー!」
 がばっと起き上がったからだが、そのままぶつかるようにしがみついてくる。小さく震えている身体にやんわりと腕を回して、ヤガミは熱を帯びた耳元に唇を寄せた。
「ありがとう。うれしい」
 意図したよりもずっと甘く響いた声に、ヒサは一瞬動きを止め、それからまた胸元にぎゅうぎゅうと顔を押しつけてくる。
「自爆でした自爆です。まさか今日会えるとは思ってなかったし」
「よしよし」
 抱き寄せた腕にもう少し力を込めて、つやつやとした髪を撫でる。
「みんなみたいにちゃんと言葉で、とも思ったんですがー」
 いやいやをするように頭を振って、顔はどうあっても見せたくはないらしい。そのまま押し倒されかねない勢いでしがみついてくる身体をなんとか支えて、ヤガミは柔らかな髪に鼻先を埋める。
「なんか区別つかなさそうだし、直接言いたいし、はずかしいし」
「今聞いてやる」
 囁く促しにびくっと震えたからだが一度固まって、またふるふると震え出す。
「うー」
 噛みしめたようなうなり声を上げて、ヒサはふいにもぞもぞと動き出し、ヤガミの首に腕を回すようにして抱き着きなおしてきた。か細い力でせいいっぱいしがみついてくるようなそれは、ちっとも苦しくないけど別の意味で苦しい。それでもそれをただ受け止めるのが、自分に許されていることだからして。
「大好き。愛してる。会いたい」
 耳元を駆け抜けていった甘いささやきに、目を閉じる。この声を、この言葉を聞けるのは自分だけ。そう思うと、こみ上げてくる感情に更に苦しさは増す。それが彼女からもたらされるものならば、どんなに苦しくても抱きしめて離さない、絶対に。
 抱きしめた苦しさを丸ごと飲み込んで、そっと吐き出す。優しく、柔らかく、思いの全ては込めないように気をつけて。
「俺も愛してる」
 全てを込めてしまったら、彼女を壊してしまうかもしれない。それが怖い。ほんの僅かに零した気持ちだけでも、こんなに深い響きになってしまうのに。
 彼女に見えぬ角度で自分に苦く笑って、ヤガミはそのかわりのように戯れに耳に息を吹きかける。
「ふにゃっ」
 猫が毛を逆立てるようなリアクションで、ヒサは一度びっと背筋を伸ばし、それからまたしおしおと自分に抱き着いてくる。先ほどよりはきつくない腕の拘束に、ヤガミは笑って髪をまた撫でた。
「あんまりくっつくな。変な気分になる」
「うーー」
 悔しげなうなり声を立てたかと思うと、ヒサはやにわに身を伸び上がらせた。耳元に、温かな吐息があたる。ちくりと、ささやかな痛み。それよりもずっと強い、背筋を走り抜けた戦慄を堪えて、ヤガミは自分を見上げてくる真っ赤なふくれっ面に微笑みかけた。
「仕返しするな」
 尖った唇に吸い寄せられかけたのをなんとか自重して、立ち上がる。花火はまだ全て終わったわけではないが、時間的に見てそろそろ潮時だろう。
「さて、帰るか」
 そう言って手を伸ばしても、ヒサはうなり声を上げたままその手と彼の顔を交互に見るばかりだ。大きな目が、ふとぱちりと瞬いて。
「えと。ソーイチローのお部屋、おじゃましていい……?」
「……」
 ぱちぱちと瞬くほどにこちらを伺うような眼差しになっていくのを、ヤガミは黙って受け止め、両手を伸ばしてその身体を引き上げた。そのまま額同士を、コツンと合わせる。
「時間飛ばしていいなら」
「う。うん……」
 判っているようないないような曖昧な返事に、思わず笑みがこぼれた。困惑した表情のままのヒサの頭を軽く撫で、シートに置いたままにしていたヘルメットを渡す。さっきまで並んで座っていた地図を畳んで振り返ると、ヒサはもう後部座席に腰を下ろしていた。惜しいことをしたなと思う気持ちを封じ込めて、自分も前のシートに腰を下ろし、ヒサの腕が腰に巻き付くのを待ってから走りだす。
 車の間を縫うように走れば、夜風が心地よい。その風のせいで、会話は多少叫ぶような勢いになってしまったが。差し入れを持ってきたのだというヒサの言葉に、ようやく部屋に来たがった意味を納得する。この前があれだっただけについいろいろ考えてしまったのだが、それは全て杞憂だった、そういうことだ。
「二人で食べるか?」
 そう水を向けると、一拍おいて嬉しげな笑い声が返ってくる。
「そうしましょうかー」
 見えない笑顔も、簡単に脳裏に描き出せる。心から好きな、愛らしい笑顔だ。
 少し速度を上げれば腰に巻き付いた腕の力が強くなる。一刻も早くその笑顔が直に見たくて、ヤガミは空港への道を急いだ。

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